回顧録 アストン マーティンV8 ヴァンテージ vs アウディR8 前編
公開 : 2018.04.15 09:10
なにからなにまで新しいヴァンテージ
さて、この話はひとまずここでおしまいだ。なぜならこの一例をもって読者諸氏が“変わり映えしない英国車が驚異のドイツ車と手合わせして完敗した話”と先読みしてしまいかねないからで、それではこの新型アストンと、それを製造した開発陣の情熱の両方を見くびることになってしまう。
前のモデルと区別を付ける手がかりになるのは19インチになった新しいリムくらいなのは確かだが、しかしこのクルマのルックスを変える必要性を感じる人がいるだろうか? 3年前にV8ヴァンテージがアストン マーティンの新たな希望の星として登場したときからずっと、ストレートでの加速力とコーナリングのバランスこそこのクルマに求められてきたものだったはずだ。
そして、この3年間は無駄にされなかった。無変更のままキャリーオーバーされた主要な部品ひとつとしてない。エンジンでいえばブロックやヘッド、ピストン、コンロッド、ライナー、バルブ、カムなど、すべてが変更または改良されている。ボアとストロークはともに拡大されたが、それは単純な大排気量化ではない。すでにオリジナルの開発者であるジャガーが意図していた排気量に達していたものをさらに拡げる、困難な作業であったのだ。
その結果、4735ccの排気量から41psアップの426psを発生し、しかもリッターあたり90psという恐るべき排気量比出力は変わっていない。トルクも以前の41.8kg-m/5000rpmから47.9kg-m/5750rpmへと向上している。なお、発生回転数の上昇はまったく気にする必要はない。確かにこの4.7ℓエンジンのトルク曲線は4.3ℓのものに比べてフラットではないが、それは単に2750rpmあたりでそれまでほぼ平行だった曲線が分かれていくだけだ。そこから6750rpmあたりまでは、新型エンジンのトルクは排気量差から想像されるよりも強烈に力強く感じられる。
コーナーでは、セッティングが改められたスプリングとビルシュタイン製のダンパーを満喫できる。もし今回の試乗車のようにオプションのスポーツパック(42万3150円)を装着したヴァンテージであれば、サスペンションは昨年に発売された400psの特別仕様車“N400”よりもさらによくなる(N400には19インチ5本スポークの高品質なホイールが付属しており、それによってバネ下重量が格段に軽くなっていた)。