回顧録 アストン マーティンV8 ヴァンテージ vs アウディR8 後編
公開 : 2018.04.15 18:10
感性へ訴えかけるヴァンテージ
2日間にわたってアウトバーンやワインディングを走り回るうちに、私の頭の中にはひとつの単語が繰り返し浮かんでくるようになった。その言葉とは、“ロータス”である。この賛辞がどれだけの重みを持つものか、アウディは間違いなくわかってくれるだろう。過去15年間、なによりもハンドリングの総合的な水準を批判され続けてきたプレミアムブランドから出てきたモデルなのだから。このクルマは恐るべき到達点である。
不足があるとしたらブレーキだ。今回の個体では、今まで試乗してきたほかのR8のそれに比べてちょっと軽すぎて、気の抜けた感じがした。ストッピングパワーに関しては申し分ないが、すべてのミドエンジンスーパーカーのなかで最高だと私が確信できるシャシーを作り上げたアウディが、日産マーチよりもフィールやプログレッションに欠けたブレーキを装備してしまったのは、ちょっと真剣に考えたほうがいいかもしれない。
つまりブレーキではヴァンテージのほうが圧倒的に優れているのだが、それを考慮に入れたとしても旗色はちょっと悪い。ただし、この種のクルマが属している価格帯は、ピュアな客観的性能が重要である一方で、さらに感性に訴える部分がより重要視されるセグメントでもある。そういう視点で説得力のある要素のひとつが、自分自身の目にどう映るかだ。R8は今回のこれより映えるカラーを今までに見たことがないが、しかしそれでもアストンを前にするといささか不恰好に見えてしまうのは否めない。そして、もうひとつの要素がインテリアだ。アウディが機能的かつ効率的であり高品質なキャビンを構築しているのに対し、アストンが与えるのはひとつの芸術作品である。
もっとも、良し悪しに関しては冷静に判断しなければならない。R8のインテリアは、柔軟性の高いドライビングポジションから操作系の明快さにいたるまで、ただ運転操作のために、ひたすらシンプルで素晴らしい環境に構築されている。けれどヴァンテージはそうではない。DBS譲りのセンターコンソールを備えるようになったが、相変わらずダイヤル類はわかりにくく、GPSナビはオプションであり、しかも大げさなうえに操作方法は不可解ですらある。さらに小さなボタンをずらりと並べたインターフェイスの扱いにくさには、時に怒りさえ覚えてしまった。