シトロエンDS 4種乗り比べ 「60年前の未来のクルマ」後編

公開 : 2018.05.04 20:10  更新 : 2021.03.05 21:43

電気なし 水道なし 60年前の「未来」

しかしそうした不満は、メルセデス300SLのガルウイングドアに「普通じゃない」と文句と言うようなものだ。シャプロン製のオープントップの価格はスタンダードなDSのほとんど2倍だったが、その美しさと偉大さを金額で測ることはできないだろう。

60年前のモーターショーでDSが巻き起こしたインパクトを正しく理解するためには、当時の英国が今とどう違っていたかを考える必要がある。1955年の英国はカフェバーやテディボーイ(20世紀初頭風の服装をした若者)が流行り、家族の話題は住宅ローンや初めて買うクルマについてだった。家には電気も水道もなかった時代である。ビクトリア様式の建築が並び、鉄道は蒸気機関車で、街路を照らすのはガス灯。近代主義建築家のエルノ・ゴールドフィンガーが建てた斬新なビルと同様に、シトロエンDSは未来を指し示す道標だった。

今回の4台はそれぞれ意味ある年に生産されたが、どれも時代にマッチしなかった。少し早すぎたか、もっと手厳しく言えば、人々が想定する未来像に対して先駆けすぎた。しかし60年前にシトロエンが、クルマがどうあり得るかを定義し直したのは確かだ。サルーンであろうとサファリであろうと、パラスもデカポタブルも、どのDSも旧来の規範に挑戦していた。素晴らしい何かを予感させるクルマを目の前にしたとき、常識や伝統に執着する意味などないのだ。

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