メルセデス・ベンツSLS AMG ブラック・シリーズ
公開 : 2013.03.07 15:48 更新 : 2017.05.23 16:39
■どんなクルマ?
歴史上のメルセデス・ベンツの中で、最もドライバー・フォーカスなロードカーがこのSLS AMGブラック・シリーズだ。
スタンダードなSLSとの違いは、フロント・バンパーにカーボンファイバー製のスプリッターが取り付けられ、フロント・ウィングが13mm拡大したこと。カーボンファイバー製のボンネットにはエア・ダクトが開けられ、更に、リア・ブレーキのためのスリットが開けられ、26mm幅広くなたリア・ウイング、そしてディフューザーがビルトインされたリア・バンパーを持つことなど。
他のブラック・シリーズ同様、フロント・バンパーの外側コーナーには、フロント・ブレーキのクーリングのためのウイングレットが取り付けけられ、リアのブートリットには通常の格納式ではなく固定式となったカーボンファイバー製のリア・ウイングとなっている。
ボディ・ウエイトは70kgシェイプアップされた1550kgだ。
この他、カーボンファイバー製のトルク・チューブが、アルミニウム製のものに変わって取り付けられている。それは、軽いだけなく、強度的にも優れているという。また、シートの後ろのバルクヘッドはカーボンファイバー製となり、剛性を上げている。
しかし、本当の変化はそのエンジンにある。
ナチュラル・アスピレーションの6.2ℓV8エンジンは、カム・ジオメトリーが変更され、ニュー・デザインのバケット・タペットが与えられ、バルブ・ギアがリファインされた。また、インテーク・システムも新たしくなり、ベルト・ドライブも変更され、クランク・アッセンブリーの最適化、冷却系の見直しなどが行われた。その結果、パワーは59bhp上昇した622bhp。その発生回転も600rpm高い8000rpmとなった。逆にトルクは1.5kg-mほど痩せたが、ロー・エンドでの扱いやすさは増している。数値的には64.8kg-m/5500rpmだ。
■どんな感じ?
ガルウィング・ドアを開けると、本革とカーボンファイバーがドライバーを迎え入れてくれる。ドライビング・ポジションは非常によく、まばらにクッションが入れられたカーボンファイバー製のシートも素晴らしい。レース用ハーネスではなく、通常の3点式シートベルトを締め、テストコースとなったポール・リカール・サーキットのピットレーン出口を目指した。
ピットレーン出口から最初のコーナーに向かっただけで、このブラック・シリーズが通常のSLS AMGと異なることは明白に解る。スロットル・レスポンスは明らかに鋭く、AMGのV8はレブ・リミットまで軽快に伸びる。どのパートであっても、エンジン・サウンドは素晴らしい。
ダブル・ウィッシュボーン・サスペンションのジオメトリーは変更されていないが、エラスト・キネマティック・プロパティは大きく修正されている。フロントが50%、リアが42%、SLS GTに対して硬くなっている。タイヤはフロントが275/35R19、リアが325/30R20のミシュラン・パイロット・スポーツ・カップ2を履く。但し、それは一般公道上ではベストなチョイスかもしれないが、残念ながらポール・リカールのサーキットの上ではコンプライアンスに欠けるも事実だ。
スタンダート・モデルよりも固いという予備知識は持っていたものの、実際に走らせると本当に足が固められているのがわかる。また、リア・ウイングのもたらすダウンフォースが強力になっているのも実感できた。
しかし、そのハンドリングについては、まったくもって誤りというものがない。フロント・エンジン・モデルとしては、それは恐ろしいほど優れたバランスの持ち主だ。さすがにタイヤに熱が入るまでは、アンダーステア傾向にあるが、一端熱が入ってしまえばそれもなくなる。
ポール・リカールのインフィールド・セクションでも、ボディ・ロールは僅かでしかない。ちなみに、このブラックシリーズは、SLS GT3のようにシャシーがボディに直接ボルト止めされている。そしてスプリングとダンパー、アンチロール・バーがアップグレードされている。
ドライ状態でのトラクションはエクセレントのひとこと。更に印象的なのは、電子制御のディファレンシャルのロックだ。どの後輪駆動のAMGモデルと比較しても、リア・ホイールのパワーにパワーが伝えてくれているフィーリングだ。もちろん、パワースライトをキープすることも可能だ。
標準的なサスペンション・セットでも、素晴らしいハンドリングで、その限界を試すことができる。ディファレンシャル・ロックとスタビリティ・コントロールが常に正しい方向へと導いてくれるのだ。また、例えその進路を間違ったとしても修正は容易だ。
そのエンジン・サウンドは、チタンのエグゾースト・システムから発せられる力強いもの。SLS GTよりも大きい。ちなみに、そのチタン製のエグゾースト・システムは僅かに17kgで、標準のスティール製に対して13kgも軽い。
ステアリング・ホイールに装着されたパドル・シフトによる7速デュアル・クラッチ・ギアボックスのコントロールはレスポンシブだ。AMGがそのソフトウェアをどのように変えてきたかは定かではないが、スロットル・コントロールに対して滑らかに反応する。
問題と感じたのはそのブレーキ。フロントΦ402、リアΦ306のセラミック・ブレーキの効きは強力なのだが、履いているミシュラン・パイロット・スポーツ・カップ2のタイヤがその制動力を生かしきれていなかったのだ。
■「買い」か?
すべてのレベルで完璧なクルマだ。しかも、どのAMGモデルよりもドライバーにフォーカスしたクルマである。サーキットでは、ル・マンを走っているようなの経験をさせてくれる。おそらく、それは1997年に25台が生産されたCLK GTRよりも上の経験をさせてくれるに違いない。
価格は230,000ポンド(3,240万円)と息を呑むようなものだが、このスリー・ポインテッド・スターにはそれだけ払う価値があるといえよう。
(マット・プライヤー)
メルセデス・ベンツSLS AMG ブラック・シリーズ
価格 | 230,000ポンド(3,240万円) |
最高速度 | 315km/h |
0-100km/h加速 | 3.6秒 |
燃費 | — |
CO2排出量 | – |
乾燥重量 | 1550kg |
エンジン | V型8気筒6208cc |
最高出力 | 622bhp/7400rpm |
最大トルク | 64.8kg-m/5500rpm |
ギアボックス | 7速デュアル・クラッチ |