英国史上最高のドライバー、スターリング・モスの軌跡たどる マセラティとともに
公開 : 2018.07.01 12:10
シルバーストンへ
こうしてシルバーストンのパドックに着くころには、愛情のような気もちさえ芽生えてきた。
ここへ来たのは、モスの代表的なレースの舞台だったからではなく、たぐいまれな多才さをご紹介するためだ。いまでは、F1レーサーがル・マンにも出るとなればトップニュースになるが、あのころはモスを筆頭に、みんな何にでも出たのだ。
モスがどんなレースでも勝てることを知らしめたのが、ここシルバーストンだ。1952年と53年、巨大なジャガー・マークVIIを操っての快挙だった。ジャガーはウェストミンスター寺院の中でも走っているかのようにコーナーでは倒れそうなほどロールするので、モスは助手席ドアに左足を突っぱって体をささえた。
それでも2年連続で勝利をおさめたどころか、1954年もスターターの噛みこみさえなければハットトリック達成も夢ではなかったのだ。モスは何度もクルマから飛びおりては噛みこみをはずそうとボディをゆすり、また飛びのって始動を試みた。それでも結局3位に入賞したのだ。
同時代のジャガーのレーシングカー、C-あるいはD-タイプといったのほうが好みだっただろうが、モスはマークVIIがお気に入りだと語っている。