英国史上最高のドライバー、スターリング・モスの軌跡たどる マセラティとともに
公開 : 2018.07.01 12:10
英国最高のドライバー
モスのレースはここで終わったかと思われた。
だが、なんとチームは同じレースに参戦するほかのチームのピットを奪い取り、そのとき4位にいたそのチームの同じアストンにモスを乗せ、ベストを尽くせと送りだしたのだ。
遅れを取り返すどころか、モスは2位に30秒以上の差をつけて優勝した。その瞬間、5人の歴代F1チャンピオンとフェラーリやポルシェの完全ワークスチームを相手どる不利をはねのけ、だれもが一度はあきらめた世界スポーツカー選手権タイトルはアストン マーティンの手にもたらされたのだ。
グッドウッドからウェールズへの帰りは長い道のりだったが、道が空いていれば、グランツーリスモに乗って思いにふける時間はイヤなものではない。
わたしにとって、モスはイギリスの生んだ最高のドライバーだ。ただたくさん勝ったからではない。勝ち方が最高だったのだ。第一線のドライバーは口を揃えて、みんな同じだというものだが、モスの時代はかならず「スターリングをのぞいて」というひと言を付けくわえたものだ。
この上なく強靱でありながら徹底的に公正だったモスは、危険をおしてレースを競ったのではない。結果が1位だろうが10位だろうが同じように全力でたたかい、またひとを守るためならタイトルをあきらめることすら辞さないような人間だった。だからこそ、あらゆる種目や時代のスポーツ人のなかでもごく限られる、真に「ヒーロー」と呼ばれるに値する人間なのだ。
スターリング卿、あなたには心ゆくまで悠々自適の生活を愉しんでいただきたい。だれよりもそれがふさわしいのが、あなたです。