マクラーレン・セナ シャシーナンバー001は特別 「納車記念の旅」に同行
公開 : 2018.08.19 08:10
中味が重要 素晴らしいエンジニアリング
それでも、重要なのはその中身であり、さらに言えば、オプション装着前の75万ポンド(1億905万円)という価格に、それが見合ったものであるかどうかだ。セナを500台販売すると、マクラーレンの年間売上6億6700万ポンド(969億8200万円)に近づくことになる。コストの掛かった生産設備、巨額の開発費用、最後は手仕上げの組立工程などを考えると、その収益性は想像するしかないが、1台あたりでみれば、恐らく1/5のプライスタグを掲げる570Sよりは高いだろう。それでも、あるところで収益性は頭打ちになるものだ。
もちろん、冷静に考えれば、セナが570Sより5倍も素晴らしい訳ではないが、その価値があるかどうかは、ひとそれぞれだろう。100万ポンド(1億905万円)のクルマを買うなど、50万ポンド(7270万円)の家を購入しているひとびとには考えられないだろう。だが、50万ポンドの家も5万ポンド(727万円)のモーターホームを買うひとには別世界の話であり、それも500ポンド(7万2700円)のハンドバッグを購入するひとにはあり得ないことになるのだ。
そして、毎日の食事にも事欠くようなひとびとにとっては、すべてが考えられないような買い物ということになってしまう。こうした関係性のなかで、多くはつねに下をみることなく、上ばかりを見て「ああなりたい」と言っているのだ。そして、成功するほど、インスタグラムで自慢するようになる。
セナに対する注目、とりわけインターネット上の注目は、花の蜜に群がる蜂のようなものだ。巨大なソーシャルメディア上には、限定生産モデルのすべてのシャシーナンバーを収集しようとするひとびとがいて、公表しているよりも多くの台数を生産しようと考えているようなメーカーはあとで困ったことになる。
もちろん、マクラーレンがそんなメーカーだとは思っていない。まさに現代における鉄道や飛行機の運行記録オタクのようなものであり、ロンドンのデパートの廻りをうろついて、限定モデルを探すのだ。そんな風に注目されたら、デパートへ乗り付けるのにも躊躇するだろう。そして、その注目の理由というのは、その価格ではなく、素晴らしいエンジニアリングにある。
セナに乗ればそれを感じることができる。初期のMP4-12Cから続く、マクラーレン流の完ぺきなエンジニアリングが、奇妙な形をしたフラットなシートと、マイルドなアンダーステアとその後に顔を見せるオーバーステアの間からあふれ出してくるのだ。
そのボディの下にあるもののすべてがセナの価格を納得できるものにしている。マクラーレンと、そのライバルモデルの製造コストを知る人間が、「われわれのクルマにはコストが掛かっているんです」とかつて話してくれた。