ミドシップスポーツカー対決 エヴォーラ vs ケイマンS 回顧録
公開 : 2018.08.13 11:10 更新 : 2018.08.14 19:47
完璧すぎてドラマに欠ける
しかし、乗り心地という点ではエヴォーラが上で、ステアリングは軽くてデリケートかつ正確である。このエヴォーラのステアリングを知ったら、ケイマンSのそれはまるで下品なマッスルカーのように感じられてしまったほだ。
ただひとつ、ケイマンSだけに備わった美点がある。エヴォーラはドライビングのドラマ性にまったく欠けているのだ。もちろん、シャシーはコーナーを攻めれば素晴らしい応答を見せてくれる。しかも完璧なステアリングで、息をのむほどに平静を保ったままコーナリングをこなすのだ。エヴォーラを運転していて退屈する暇なぞあろうはずもない。
エヴォーラが問題なのは、やることなすことすべてがあまりにも素晴らし過ぎるというその一点である。あまりにスムーズでリファインされ過ぎているので、コーナーからコーナーへと駆け抜ける身のこなしが、あまりドラマティックに感じられないのだ。
そのせいで自分がどれほど凄まじい速度でコーナーを抜けているのか、ときどきわからなくなってしまうほどだ。それと同時に、エヴォーラがどれほど見事にコーナリングをこなしているのかにも気がつかないだろう。さらに付け加えると、この日のようにウェットでバンピーな路面状況でコーナーがいくつも連続する場所では、エヴォーラがどれほどあっさりとケイマンSを置き去りにしてしまうかにも、気づくことはないだろう。
こうしたエヴォーラの凄さは、ケイマンSに乗り換え、まったく同じ道を走ってみたときに初めて気がつかされるのである。同じコーナーを抜けてみるだけで、エヴォーラのほうがはるかに優れていることが理解できるのだ。ステアリングのよりダイレクトな操舵感、特に前輪でその差が顕著に出てしまうグリップ感、そしてあらゆるコーナーでの並外れた限界速度の高さ─これらすべてにおいて、エヴォーラはケイマンSを凌駕しているのである。