現実の選択 毎日使える1000万円級スポーツカー対決 後編 回顧録

公開 : 2018.09.22 16:10

真の意味で現実的な1台

2ステージ式のESPは実にスムーズで、たいていの場合はドライバーがトラクションのロスに気づく前にカットオフが動作しており、ドライバーはただランプの点滅でそれとなく気づく程度である。

M3のステアリングのクセについては、すでに幾度となく指摘してきたとおりだ。通常モードではアシストが過多で、モードに関係なくフィールが欠如しているきらいがある。それでもM3は、クルマの前端で起こっている現象をドライバーに伝える能力に関しては、TT RSに比べたら多少はマシだ。

切り込んでから手応えが戻ってくるまでに一瞬のタイムラグがあるが、そこからでも十分にグリップを活用して走ることができる。特に、長いコーナーを抜ける際には、アクセルを踏み込んでいくとラインを絞り上げるように甘美に切れ込んでいくのがわかるだろう。

とりわけ今回の個体のようにDCTを搭載したM3の場合、単にクロスカントリーでスリリングな走りを愉しめるクルマという以上の、幅広いレパートリーを備えているという事実を忘れてはならない。M3がワインディングなどの曲がりくねった道では最強とも言える走りの性能を持っていることは、これまでも散々語られてきた。

しかし、それにも増して現実的に重要なのは、このクルマが柔軟性に富んでおり、毎日の道具として使える実用車でもあるということなのである。乗り心地は快適で、リファインは見事に行き届いており、トランクの容量は今回集まったどのクルマよりも大きいのだ。

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