最高にホットなBセグ・ハッチバックを探す 後編 回顧録
公開 : 2018.09.24 16:10
アバルト500エッセエッセ
見た目では、このフィアットは自らを印象的に見せようといささか危険な賭けに出てしまったのかとも思えるが、さまざまなアクセサリーを付加してもなお、そのとても美しいプロポーションにいささかのかげりもないのは、イタリア人のセンスのなせる技と言ったところだろうか。
同じことは室内にも言えており、多くのスイッチやゲージなどが追加されているが、普通のフィアット500を上回る特別な利便性を提供してくれるオプションはごく一部にすぎない。その数少ないなかでも最高のものが、サポートが格段に向上したシートと新たに太いリムが与えられた本革巻きのステアリングホイールであったのは、われわれにとっては幸運だった。
そして、その頂点がエンジンである。走り出した瞬間からアバルトならではのフィールとサウンド、つまりコンパクトながら本格的な高性能車である実感が味わえる。ターボラグは多少あるものの、加速の衝撃は軽くスロットルペダルを踏んだだけでも驚くほど強烈だ。
自然吸気のトゥインゴで踏み込んでみてもキビキビ感が増す程度だが、この500は本物の速さを与えてくれる。しかも、それだけでなくサスペンションも、このパワーに合わせてほとんど別物と思えるほど見事にチューンされている。
結果、このアバルトは、どんなサーキットでも飛ぶような速さで周回できるクルマに仕上がっている。ただしそれは、最大の問題点さえクリアできれば、という条件付きだ。それは乗り心地である。あまりに硬いので、ほかのクルマならまったく気にもとめないような路面のうねりでも、場合によっては簡単に離陸してしまうのだ。もっとも、ほかの5台ほど流麗にバンプを吸収できないものの、路面にコンタクトしている限りはちゃんとしたハンドリングだから危険はない。
グリップは前後ともに潤沢で、ステアリングのフィールこそ少々欠けているもののターンインは正確だから、これ以上ないほど的確にドライブできる。もう少しサスペンションの硬さが取れて優雅な走りができたら、このエッセエッセはもっといいクルマになるだろう。