アルピーヌA110/アバルト124GT/フォーカスRS WRC第11戦を巡る 前編
公開 : 2018.10.14 06:10 更新 : 2021.05.13 12:00
初日:素晴らしいオルメ半島
まずはフォードに乗って、グレートオルメ半島の断崖に伸びる道、マリーン・ドライブを舞台に、わたしが主催するラリーGBの第1ステージを開幕することにした。1973年のWRCでの活躍が伝説のように語られるDNAは、現代にもしっかり受け継がれているけれど、フォードはエスコートではなく、フォーカスへとモデルを変えてしまっている。
スリムなボディラインを描く現代のアルピーヌA110とアバルト124GTの中に、オレンジ色の荒々しく大きなボディが並ぶ。今回のクルマは限定のヘリテイジ・エディション。1973年式のエスコートの隣に2018年式のフォーカスRSが並ぶと、派手にヒーローが変身をするような、マーベル社の漫画のいち場面に見えるかもしれない。
1973年のWRC英国ラウンドでは、アルピーヌを持ってしても、エスコートRS1600に迫ることはできなかった。現代のフォーカスRSヘリテージエディションも、マリーン・ドライブのコーナーを、激しく切り込んでいく。まるで何かを必死に追い詰めるように。アルピーヌA110と0-100km/h加速は4.5秒と同値ながら、実際の様々な地形においては、この3台の中では最も速いクルマだと思う。
フォーカスRSは求めれば、炎のように激しい情熱を持ったクルマに変貌する。マウンチューン社のチューニングとクワイフ社のリミテッド・スリップデフを採用したヘリテージエディションは特に。実際、フォーカスはこの3台の中では、本物のラリーカーのような運転が可能。極めて積極的で、柔軟な4輪駆動によるハンドリングを持ち合わせている。
アルピーヌは、最も歴史的な結びつきが深く感じられる。おそらく数十年のブランドのブランクが、そうさせたのだろう。すでに4時間以上、400kmに渡ってアルピーヌに乗っているが、もっと乗っていたいと思える今回唯一のクルマで、これ以上素晴らしいドライバーズシートは他にないとさえ思える。
そしてグレートオルメ半島を囲む道は、比較的視界が良く、断崖絶壁にまとわるリボンのように、水平線へと続いている。ジェームズ・ボンドの映画のカーチェイスにピッタリのロケーション。でも、この険しい道でもアルピーヌはまったく怯まない。間髪を入れない軽快さを、ロータス以外のクルマで体験したのは初めて。すべてのコーナーを意識的にも操作的にも、路面に落ち着かせようとしても、それらを超越した鍵となる感覚が、A110の車重。まるでECUと自身の操作とが一体となっているかのように、軽量な車体が反応してくれる。