アルピーヌA110/アバルト124GT/フォーカスRS WRC第11戦を巡る 後編

公開 : 2018.10.14 10:10  更新 : 2021.05.13 12:00


SS:スレート・マウンテン

スポンサーの影響力で、ウェールズラリーGBに生まれる新しいスタイル。現代のF1でセレブリティの存在が見過ごされがちなように、ラリーにはとても情熱的で感情的な側面もある。

我々の目前にある景色は、ウェールズの丘陵地帯に8000平方kmにも広がる鉱山と、そこに置かれたクルマ。スレート・マウンテンのランドスケープは、このラリーというスポーツの持つ魂を強く明示している。埃で目が霞んでフォーカスを見失う前に触れておくと、ここはWRCで、3.2km程のスペシャルステージとして組み入れられた場所。山頂からは、タイトなヘアピンが続くワインディングを見下ろすことができる。道端には槍のように尖った岩が剥き出しで、路面は黒いスレートで覆われている。我々のラリーのフィナーレはここに決めた。

コースに降り立ち、危険なほどきついコーナーを抜ける。一瞬逆方向にステアリングを切ってドリフト状態に持ち込む、スカンジナビアンフリックを何度か決め、往年のアリ・バタネンの走りを再現してみる。このコースを激しく攻め立てたといいたいところだけれど、今回の3台は本当のラリーカーではない。普通のタイヤを履き、充分なロードクリアランスもなく、板金の必要がない状態でメーカーに返さなければならない。現実が気持ちを抑える。

極めて高速で複雑なコースをやや抑えて走ったけれど、これまでの時間を振り返る。今回の3台の素晴らしい特徴、個性をラリーシーンが生み出したことは間違いない。

アバルト124GTはシンプルで積極的なドライビングを受け入れつつ、どこか気まぐれさも残る。アバルトにはFIAのR-GTクラスに該当するラリーバージョンも存在はするのだが、実際に壮大なラリーコースでドライブしてみても、古い英国製のロードスターやクーペほど、ラリー車としての雰囲気が強くない。ロータスエランやMG Bといった、人生を豊かにさえしてくれる、スポーツ・ロードスターという英国の自動車文化は、愛おしいものだ。

対象的にフォーカスは、ハイパフォーマンスなホットハッチとしての、偉大な道標としての完成度がある。荒々しくも楽しさに溢れ、熱い走りと利便性を兼ね備えている。確かに祖先となるエスコートとはメカニカル的に異なる成り立ちだとはいえ、他の2台と同様に、21世紀のWRCとの結びつきは確かなものだと思う。

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