消えゆくV8自然吸気 フォード・マスタングで味わう 楽しむなら今
公開 : 2018.11.03 11:40
フラットプレーン vs クロスプレーン
V8エンジンのサウンドや、剃刀の如きスロットルレスポンスといったものは、もはや多くのひとびとにとって重要ではないのだ。スーパーチャージャー付きエンジンであれば、パワーやトルク、さらにサウンドに満足することはできるし、ジャガー・ランドローバーはそれを実現してもいるが、この状況も長くは続かないだろう。
V8サウンドがあれほど甘美に聞こえる理由は知らなくても、どうすればあのサウンドを創り出すことができるかは分かっている。
パーシー・スペンサーがたまたまポケットにチョコレートバーを入れたまま、マイクロ波発生装置の前に立ったことで電子レンジを開発して、その後の人生が大きく変わったように、最初にV8用のクロスプレーン式クランクシャフトを開発したひとびとも、その独特のサウンドを創り出そうなどとは思っていなかったのだ。だが、実際には、常にV8であればあの魅力的なサウンドを響かせていた訳ではないし、なかには未だにそれが出来ていないエンジンもある。
フェラーリやマクラーレンが積んでいるような、レーシングエンジンや究極のパフォーマンスを発揮するV8には、第1次世界大戦前に開発されたシンプルなクランクシャフトが使われている。フラットプレーン式と呼ばれるこうしたエンジンの問題は、ふたつの4気筒エンジンがひとつのクランクシャフトを共有しているがゆえに、4気筒エンジンの2次振動が倍増されるということにある。ふたつの大戦を挟んで米国では、それなりの速度で長大な距離を走破するために求められるエンジン出力を達成すべくエンジン排気量が拡大したために、この問題はさらに大きなものとなっていった。
しかし、点火タイミングを180°間隔ではなく、90°ごとに設定し、クランクシャフトを端から見たときクロスしているような形状にすることで、こうした現象を問題のないレベルにまで解消させることが可能となった。では、なぜレースエンジンにもこの手法を適用しないのだろう?
クロスプレーン型V8では、本来スロットルを踏み込むとエンジンが派手に揺れ動くはずだが、カウンターウェイトを設置することでこの問題を解消している。だが、一方で重いカウンターウェイトによってエンジン内部のイナーシャも増加しており、これがエンジン重量増と、フラットプレーン型に比べ低いレッドゾーンと出力の理由ともなっているのだ。それでも、そのサウンドは素晴らしい・・・