ジャガーF-タイプ V6S

公開 : 2013.04.18 20:01  更新 : 2017.05.29 18:38

■どんなクルマ?

ジャガーの新しいスポーツカー、F-タイプのミッドレンジ・モデルがV6Sだ。ジャガーが本格的にスポーツカーと呼ばれるモデルを登場させたのは、XJ220以来のことである。

ジャガーのF-タイプのライン・マネージャであるイアン・ホーバンは、「F-タイプは本当のスポーツカーであり、他のジャガーとは異なるモデルだ。それは50メートル、50kmではなく、50メートルもハンドルを握ればそのことに気がつくはずだ。」と語っている。

何が”通常”のジャガーとの違いは何なのだろうか。

F-タイプは、XKのようなアルミニウム合金からボディが作り上げられている。共に、フロント・エンジン・リア・ドライブだが、F-タイプは2シーターであり、XKは立派なリア・シートを備えていることが異なる。しかし、F-タイプのボディ・シェルは、XKのものよりも30%固いという。ボディ・サイズは、XKよりも1フィート程度短く、親指の厚さほど幅広く、120mmほどドライバーの着座位置が低い。ジャガーは、そのライバルがメルセデス・ベンツSLではなく、ポルシェ911カブリオレ、アウディR8スパイダー、そしてアストン・マーティンV8ヴァンテージロードスターだという。そして、それらモデルよりも25%安い価格だと主張する。

V6Sは、フロント・ミッドに375bhp、46.9kg-mのパワー、トルクを発揮する3.0ℓのスーパーチャージャーV6エンジンを搭載する。そしてすべてのF-タイプのように、8速のZF製オートマティック・トランスミッションが組み合わせられる。スピードが上がるにつれロック・アップする通常のオートマティック・トランスミッションで、デュアル・クラッチではない。

このV6Sは、コンベンショナルなメカニカル・リミテッド・スリップ・デフを装着する。ベース・モデルのV6はロッキング・デフを持たないし、上位のV8Sは電子制御のリミテッド・スリップ・デフとなる。これは、eデフの15kgというプラスのウエイトハンディを考えた時に、フロント50、リア50というV6Sの理想的な重量配分を損ないたくなかったという理由だ。

V6Sは、0−100km/h加速4.9秒と、トップスピード275km/hというパフォーマンスを持つ。これは少なくとも私には充分な数値だ。価格は67,500ポンド(1,000万円)。これも妥当なラインだと思える。

全体的に見ると、F-タイプはオールドファッションだが頑強な造りのされたクルマだ。前後のサスペンションはダブル・ウィッシュボーン、ステアリングは電子制御ではなく油圧のアシストが付く。しかし、その経済性と環境性能は昔のクルマとは較べられない。10.8km/ℓという燃費と213g/kmというCO2排出量をマークする。

ちなみに、以前、ジャガーがスポーツカーを最後にリリースした時は、ステアリングにアシストなどなかった。E-タイプはもちろん、その当時の標準的なスポーツカーであるオースティン・ヒーレートライアンフTR6、そしてTVRなどもそうであった。そういった意味では、F-タイプは現代のスポーツカーだ。そして、その他についても21世紀のラグジュアリーと結合されている部分が多い。

キャビンにしても気持ちのよい素材が使われ、バランスのとれたタッチをもつスイッチ類が配される。ステアリング・ホイールに取り付けられたパドル・シフトにも高級感が感じられ、センターコンソールのエア・ベント(暖房および冷房でより大きな風量が必要な時だけポップアップしてくる)にもラグジュアリーさを垣間見ることができる。本当に完結したコクピットだ。

しかし、その一方、スペース・ユーティリティは褒められたものではない。このF-タイプは1+1シーターと読んでも良いかもしれない。事実、あなたが2、3の柔らかなバッグ以外の何かを起きたければ、それは結局パッセンジャー・シートのスペースを使うことになるからだ。そういった意味では、本当に実用的なクルマではないのだ。ポルシェ911よりも安価かもしれないが、ポルシェは+2シートをリアの持つ。そういった点では遥かに利点があるのだ。

■どんな感じ?

F-タイプV6Sは充分にスポーティなモデルだ。ドライビング・ポジションはストレートで低い。また、ブレーキ・ペダルは右足でも左足でも踏むことができる。ステアリング・ホイールは幅広い調整代をもっており、われわれのテスト車両にはヒーテド・レザー・トリムまで付けられていた。今回の試乗コースとなった北スペインの10度以下の気候では有用な装備である。

乗り心地は非常に良い。もちろん、最悪の路面状況を持つウェールズの路上ではその評価も下がるかもしれないが、それは予想されることだ。実際、その乗り心地は充分にスムーズで、ダンパー・セッティング、ステアリングのアシスト、ギアボックス・レスポンスを変化させることのできるダイナミック・ドライブ・システムの恩恵も大きい。

このF-タイプが、これまでのジャガーと異なるのは、そのステアリングだ。そしてそれは真実だ。確かに50メートル、ひょっとしたら50cm以内であったかもしれないが、私はそれに気が付いた。伝統的な油圧アシストのジャガー・ラックを持ったステアリングは、これまでで最も速いレシオを持っている。ロック・トゥ・ロックは2.5回転だが、決して過敏ではない。1614kgのロードスターを直接的に、そして効果的にコントロールできるもの。それは、悪い意味でなく今までのジャガーにはないものだ。

また、軽やかなパワーユニットとギアボックスの滑らかさも素晴らしい。V6エンジンは、現在市場にあるエンジンの中では決して最もスムーズなエンジンとはいえないかもしれない。トップ・パワーも6500rpmと決して高くない回転数で発揮する。もし、あなたがよく回るエンジンを望むのであれば、ポルシェをおすすめする。しかし、このV6エンジンは、低回転におけるトルクフルなフィーリングは、他のエンジンにはないものだ。これはV6Sに装備されるアクティブ・バイパス・バルブの効果も大きい。

このF-タイプを選ぶのに躊躇する理由があるとすれば、まずはその実用性。ボクスター同様、まったく実用性に欠けるのだ。そして、もうひとつが滑りやすい足回りだ。高速道路などではしっかりとした直進安定性を示すのだが、ワインディング・ロードでは、少々ボディ・コントロールが危うくなる。もちろん、リアがスライドしても充分に対処は可能な範囲なのだが。その点では、トップ・レベルのシャシー性能を持つメルセデス・ベンツSLKやBMW Z4と比較するのは勘弁してあげて欲しいというのが本音だ。

ステアリングは前述のとおり鋭い。そしてロード・コンタクトをよく伝えてくれる。ブレーキもややオーバーサーボ気味だが、バランスは性格だ。

コーナリングは、入り口でアンダーステア、出口でオーバーステアというセッティングだが、スタビリティ・コントロールをオフにすればオーバーステアを保つことも可能である。

■「買い」か?

ジャガーはこのクルマを「決してドリフト・マシンではない」と語っていた。しかし、ジャガーに共通するDNAはその底辺にあるように思える。長いホイールベースを持ち、バランスよく仕上げたマシンは、本当はそういったことが好きなエンジニアによって造られたようなきがするのだ。もちろん、それは少しばかり愚かなことであるかもしれないが。

総合的に見れば、F-タイプはシンプルなロードスターだ。本物のダイナミックな能力が秘められたモデルでもある。その価格も妥当なものがある。

もしも不安材料があるとすれば、1つだけ気にしなくてはならないメーカーが存在するということだ。シュツットガルトのメーカーは、このF-タイプのライバルを2モデル持っているのだ。

(マット・プライヤー)

ジャガーF-タイプ V6S

価格 67,500ポンド(1,000万円)
最高速度 275km/h
0-100km/h加速 4.9秒
燃費 10.8km/ℓ
CO2排出量 213g/km
乾燥重量 1614kg
エンジン V型6気筒2995ccスーパーチャージャー
最高出力 375bhp/6500rpm
最大トルク 46.9kg-m/3500-5000rpm
ギアボックス 8速オートマティック

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