劇画のクラシック、「ゴルゴ13」の50年……ゴルゴ展にAUTOCARが突撃
2019.01.10
AUTOCAR編集部がゴルゴ展に突撃!……色褪せぬ魅力に迫る
11月末まで川崎市市民ミュージアムで開催されていた『連載50周年記念特別展「さいとう・たかを ゴルゴ13」用件を聞こうか……』。取材当日は筆者の他には、19歳の頃に段ボール箱一杯のゴルゴを読みふけって発熱したというAUTOCAR編集部トクナガと、クルマと鉄砲と建設重機には目がないサイトウが同行した。筆者としてもマニアなふたりが来てくれたことは大助かりだ。彼らの解説を聞きながら「……」と眺めていればいいのだから。
広大な展覧会場内には、50年にわたって綴られてきた「ゴルゴ13」の世界を余すところなく網羅した内容の展示が展開しており、繊細かつ大胆なペンタッチや彩色も素晴らしい本物の原稿が数多く展示されている。目の粗いザラ紙に印刷される雑誌やペーパーバックでは読み取ることのできない原画の繊細な筆跡までを感じ取れることは、またとない眼福ともいえるだろう。展示されている名場面や登場人物たち、そして展示されているさまざまなデータやこぼれ話に、ゴルゴファンのAUTOCARトクナガは興奮するばかり! 取材に付き添ってくださった広報や学芸員の方々も返事に窮するようなマニアックな質問も飛び出た。
“絵” としてのゴルゴの魅力のひとつに、徹底した取材に裏打ちされた現実感のある描写がある。例えば’77年の第126話「ピリオドの向こう」で描かれたヒトコマ。狙撃ポイントで愛用のM16ライフルを「チャッ」という擬音と共に取り回すゴルゴの手前にディーノ246gtが描かれている。優雅なボディの立体感をトーンワークとハイライトでリアルに表現しており、モノクロ原稿ながらボディ色はロッソであることを感じさせる。また、ホイールのセンターモチーフや交差式のワイパー、運転席側のみに設けられたサイドミラーなど、このカットが描かれた年代を考えると、驚異的ともいえるディテール描写の正確さだ。さらにはディーノやライフルの硬質感と風に揺らぐゴルゴのスーツや足元の柔らかな草木の対比、そして見下ろす崖下はるか遠方に見える狙撃対象の帆船と水平線の遠近感など、一枚の絵画作品として覧ても見どころが多い。
「ゴルゴ13」はその連載当初よりシナリオから画面構成、背景・メカ・人物の描写まで、それぞれのプロフェッショナルによる分業制によって制作されている、“さいとう・プロダクション” 作品である。このシステムがあるからこそ、50年の間、月2回の連載を一度も休載することなく、このハイクオリティな作品を送り出し続けていられるのだろう。’60年代、まだ海外旅行が一般的ではなかった時代にも関わらず、海外の街や建物、クルマや人々の生活など、その街の “におい” まで感じさせる細密な描写は、学会で渡航する医師などに協力を仰いで現地を撮影、資料を入手していたという。ゴルゴが時代を超えて支持され続ける理由は、大人の鑑賞に堪え、時代に色褪せない “劇画” の理想を突き詰め続ける、さいとう・たかをとそのスタッフの情熱あってこそなのだろうと確信した。