回顧録 マクラーレンF1 GTR vs MP4-12C エンジニアリングの傑作
公開 : 2019.02.01 07:40
16年分の技術的な差
わたしが悟ったのは、これが16年前のクルマと、2011年のまさに今できたばかりのクルマとの違いだということだった。技術的にはこの2台の間には数億年にも相当するほどの差があり、それがマクラーレン・スタッフの達成した仕事なのだ。そして哲学的な意味ではこの2台の間にはさらに大きなギャップがある。
片方が生まれたのは、多くの人々にとってまだそれを受容する準備ができておらず議論が沸騰していた時代であった。1994年には価格が邦貨にして1億円を超え、しかもたいした努力も要せずに最高速度が320km/hを軽く超えるスーパーカーというのはまだ不気味な雰囲気を漂わせるものだった。
いまや邦貨2100万円で最高速320km/h級のスーパーカーは、ごく普通とはいえないまでも、決して理解不能なコンセプトというわけではない。だからこそマクラーレンはこのMP4-12Cが、少なくともフェラーリ458イタリアやランボルギーニ・ガヤルドLP560-4と同じくらい普通に売れるクルマになると考え、それを目標として発売してきたのである。
しかしF1 GTRは、今後も常に極めてレアな、希少性の極めて高いクルマであり続けるだろう。一生に一度でも見ることができたらそれだけでも驚きであり、ましてや走っているところを見たら好運この上ないという存在となろう。だからこそ今回の個体には200万ポンド(約2億5000万円)の保険が掛けられているのであり、そしてMP4-12Cの価格はその1割にも満たないのである。