クルマの故障診断の秘密、伝道師に聞く エラーコードは当てにならない?
公開 : 2019.02.23 07:50
理解が重要 患者は次々と
思わず、重力に抗う力を失いそうになる瞼の動きを目ざとく捉えたフランクは、ここで話の核心を持ちだしてきた。「小さな箱を想像して下さい。信号がこの形状のままであれば、つまり波形が正常であれば、エラーコードは発生しません。しかし、信号の立ち上がり部分と立ち下がりの部分に歪みがあったとしたらどうでしょう? エラーは出ないかもしれませんが、不具合を起こす可能性は十分にあります」
フランクは続けて、クルマの中を流れる無数の信号を、その小さな箱の中に収めておこうと、ECUがどれだけ休みなく「補正をかける」ことで奮闘しているかを教えてくれた。発生源と現象を理解することで、初めてほんとうに不具合のある個所を発見することが出来るのだという。
「不具合を正確に診断するというのは、臭いを嗅いだり、賞味期限を確かめたりして、冷蔵庫のなかで腐りかけている食品を探すようなものです」
そして不具合の再発防止には、環境も重要だ。「不具合を見つけるのと同じで、疑わしい箇所の廻りにある信号を調べます。根本的な原因が部品そのものではなく、その使用環境にあったということもよくあります。気温、酸素の濃度、カーボンの堆積などといったものです」
ここで、彼はある顧客のことを話してくれた。所有する4年落ちのアウディA6 2.0 TDIが解決不能なトラブルに見舞われ、万策尽きてフランクのもとへと駆け込んできたのだ。フランクが話を聞くと、ディーラーではエラーコードに翻弄され、なす術がないまま、排ガス中の酸化窒素を低減するSCR装置の交換が必要だとオーナーに言い渡したのだという。
「実際に信号の強さと流れを調査するとともに、SCRもさまざまな条件で試した結果、再循環排ガスクーラー(EGR)が原因だと突き止めました。それも、単に配管内に空気が混入していただけだったんです」
ひと通りの取材を終え、フランクは次の患者であるアウディR8の診断に取り掛かっている。道具はまるで手術道具のように整然と並べられ、オシロスコープを手に、額に付けた小型LEDライトを光らせ、お気に入りの椅子に座りながら作業を進める彼を、信号の波形を映し出す大型モニターの灯りが照らしている。
「コーンウォールの錫鉱山で働く鉱夫を模した、オモチャの人形に見えませんか?」と息子のデイビットがからかっている。伝道師と呼ばれても、鈍感さは必要だ。