AUTOCARアワード2019予選 真のアイコン選手権 決めるのはあなた(後編)
公開 : 2019.03.17 05:50 更新 : 2021.03.05 21:42
フォルクスワーゲン・ビートル
決して、最新のビートルを擁護しているわけでもなければ、オリジナルの解釈を間違ったり、過小評価した結果だなどと言いたいわけではない。そんなことにこだわったりするつもりはないのだ。ビートルの第2の人生とは、初代を賛美するためのものでしかない。
ビートルをアイコンだというのは、単にその驚くべき生産期間の長さ(ブラジルで2003年に生産が終了するまでに、2150万台のビートルが生み出されている)や、熱狂的ファンの存在、さらには、米国コメディ映画での活躍といったことが理由ではない。ビートルがアイコンのなかのアイコンとして認められるべきなのは、そのチープさが、決して安っぽさには繋がっていないことにある。
いまビートルを運転してみても、このクルマには「現代的」が備わっていることに気付くだろう。確かに非常に特徴的なモデルだが、そのベーシックさというのは現代の路上でも十分通用するものであり、リアに搭載されたエンジンは、アイドル時には壊れたミシンのようだが、思いっきり走らせてみれば、間違いなくポルシェのようなサウンドを響かせる。
新型911は、ビートルから見れば6親等離れた親類なのだから、それも当然だろう。そして、最後に登場した欧州仕様でも、1182ccフラット4が発揮するのは36psに過ぎない(米国仕様では1.6ℓから60psを発揮していた)のだから、現代の路上では、ビートルは思いっ切り走らせてやる必要があるのだ。
いつもの倍ほどアクセルを踏み込めば、1970年代中盤に生まれたビートルは現代の交通にも後れをとることはないが、他のクルマをリードしようなどとは思わないほうが良いだろう。
だが、このクルマを運転すれば、思わず笑顔になってしまうのだから、そんなことは問題ではない。ビートルはスポーツカーではなく、0-97km/h加速の公式データは36秒であり、もっとも快適なのは90km/h程度で走っている時だろう。
それでも、その基本性能は驚くべき完成度だ。ギアシフトは正確で、ギア鳴りなどは皆無であり、滑らかなクラッチとレシオの低いステアリングは、適切な重みと見事なレスポンスを見せる。限界まで攻め込めば、スイングアクスル形式のリアサスペンションがこのクルマの安定性を失わせるが、普通のペースで走っている限り、多くの同時代のクルマとは対照的な、しっかりとして積極的な走りを見せる。
真に印象深いのはその組立品質であり、適切な管理を受けてきたビートルであれば、最初に少しだけ窓を開けておくことで、ドアの締まりが良くなるほどのシール性を誇るなど、いまでもソリッドな感触を味わわせてくれる。新車でもトラブルが付き物だった時代であり、多くが5年も経たないうちに、深刻な錆によるダメージを受けていたのだから、このフォルクスワーゲンの品質は驚くべきものだった。
第2次世界大戦後、英国軍のイヴァン・ハースト少佐の命で生産を再開し、さらには資金を掛けずに新型モデルの開発を行ったことも、資金不足でまだよちよち歩きの状態だったフォルクスワーゲンにとっては正解だった。その結果が、長きに渡るモデルライフ中にも、世代交代ではなく、改良を重ねていくと言う真に革命的なやり方に繋がったのであり、いまや大人気のバスやバンといった派生モデルにも、同じサスペンションとパワートレインが採用されている。
1978年の英国での発売終了時も、ビートルは決して高価なモデルなどではなく、もっとも手ごろなクルマの1台だったが、そのしっかりとした組立品質と高い信頼性は、一般のひとびとの間に多くのファンを創り出し、現在のフォルクスワーゲンの成功の基礎となっている。
アイコンとは言い古された言葉だが、ビートルはそう呼ばれるに値する数少ないクルマの1台だ。
(マイク・ダフ)