スポーツカー不人気と草食系男子、意外な関係 性能や価格アップも不振の原因?

公開 : 2019.05.17 18:10  更新 : 2021.10.22 10:18

大人しい男の子が増えたからスポーツカーが売れない!?

スポーツカーの販売が低調になった背景には、グローバリゼーションもある。1990年頃のスポーツカーは国内市場に合わせていたが、今は海外に重点を置く。その結果、サイズが拡大して性能も向上したが、価格も高まった。フェアレディZGT-RNSXはこの典型だ。

またレビン&トレノ、シルビア、プレリュードといったコンパクトなクーペは販売を終えた。ロードスター、86&BRZS660、コペンは健在だが、以前に比べると日本向けの車種が減っている。

スポーツカーが売れ行きを伸ばしにくい背景には、ユーザーの変化もあると思う。かつては一生懸命に働いてお金を稼ぎ、カッコイイスポーツカーを乗りまわすライフスタイルが注目された。価値観がバブル経済に沿って、消費にも積極的だった。背景には競争に勝ち、バリバリと台頭していく人生観があった。

ところが今は「クリスマスイブを彼女と夜景の美しいホテルで過ごす」みたいなのは流行らない。少し前には「家呑み」という宣伝も受けて、お酒を扱う飲食店の売れ行きがますます下がった。クルマのトレンドも、スポーツカーから子育てに適した軽自動車へ移っている。「草食男子」という表現の是非はともかく、消費を抑え、アットホームな方向に向かっている。

見方を変えると、これらはいずれもエコロジーに結び付く。最近のトレンドを「エコか、エコではないか」に分類すると、大半が前者に入るのだ。

例えば「eスポーツ」は、少ない電力消費でスポーツ(といえるのか疑問だが)を楽しめる。わざわざクルマなどで移動して、体力を使うのに比べると、エネルギー消費は大幅に少ない。

これはもはや、人間が変革しているのかも知れない。バブル経済期やそれ以前の生産、消費、移動に積極的なライフスタイルを持ち続ければ、化石燃料の消費量と二酸化炭素の排出量は増えるばかりだ。そこでいよいよ、自然の力が人間の消費行動にブレーキを掛け始めた。スポーツカーもそこに含まれるのではないか。

今から10年以上前だが、小学生の愚息を見ていて妙なことに気付いた。わたしが子どもの頃に比べると、自転車の稼働率が明らかに低い。愚息の友達も自転車にあまり乗っていない。土曜日や休日に街中を歩いても、子どもが友達同士で自転車に乗っている姿をほとんど見かけない(わたしが子どもの頃は、友達と自転車で出かける週末が待ち遠しくて仕方なかった)。

そこで愚息に「目的地を決めず、自転車で遠くまで遊びに行ったりしないのか」と尋ねると「自転車には乗っている。でも移動の道具だから、目的地を決めずに出かけることはない。友達も同じ」と返答されビックリした。自転車が移動の道具だったら、将来、バイクやスポーツカーを好きになる可能性はきわめて低いのではないか。

スポーツカーの売れ行きが下がった背景には、いろいろな理由や事柄が潜んでいるように思う。

個人的には、電動化、運転支援、自動運転が話題になるほど、単純に運転の楽しさを追い求めるスポーツカーが愛しくなる。そんなわたしは、変革に乗り遅れた古い人間なのかも知れない。

記事に関わった人々

  • 渡辺陽一郎

    Yoichiro Watanabe

    1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆様にケガをさせない、損をさせないこと」を重視して、ユーザーの立場から、問題提起のある執筆を心掛けている。買い得グレードを見極める執筆も多く、吉野屋などに入った時も、どのセットメニューが割安か、無意識に計算してしまう。

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