ロールス・ロイスの劇的コンバージョン 世にもエレガントな働くクルマ
公開 : 2019.05.21 07:10 更新 : 2020.12.08 10:40
意外と多い、ロールス・ロイスのコンバージョン・ピックアップ
これまで、ロールス・ロイスを商用車などに改造する事例はいくつかあった。しかし第一次世界大戦中にシルバーゴーストを装甲車に改造した事例ほど、伝説的なものはないだろう。過去に英国本誌でも紹介している。実はロールス・ロイスをピックアップに改造した数が最も多いのは米国。最も古く状態の良いロールス・ロイス・ベースのピックアップトラックは、1940年代にスプリングフィールド社が製造したシルバーゴーストで、オレンジ農家を営んでいたリンドリー・ボスウェルが所有していた。
新車として輝いた時代を過ぎた、美しく設計の施されたファントムⅡシャシーは、様々な商用車へと転用されている。英国ウェールズでは霊柩車になり、スイスでは消防車に改造。英国の貴族は第一次大戦以前のクルマをウッディなシューティングブレークに改造して、狩猟に用いる道具を運んだし、インドでは20/25をジープ風のクルマに改造し、クリケットチームのメンバー移動に用いられた。その他、運送会社やアイスクリームメーカーなどからも、目立つ広告塔として重宝がられていた。一方で1940年代になると、古いロールス・ロイスをスクラップ置き場から救うため、特注のボディーワークはシャシーから外して、ガレージで修復するひとも少なくなかったようだ。
その後、モノコックボディが採用されると、商用車目的での改造は難しくなったものの、企業の宣伝利用に対する需要は変わらなかった。1984年、シャンパン醸造元のクリュッグは、ランスのぶどう畑での作業とパリでのプロモーション目的に、1979年型シルバーシャドーをパネルバンに改造する。クルマ後部には2台の冷蔵庫が搭載されていた。
他方で、葉巻たばこで財を成したミラードWニューマンが1969年シルバーシャドーを改造してエステートにするなど、米国でのロールス・ロイスのコンバージョンも需要はなくならなかった。何しろ米国はピックアップトラックの国。V8エンジンを搭載したフラッグシップモデルを貨物用のクルマに改造するのは、自然な流れだったともいえる。1970年代のステータスシンボルが中古車になりバーゲンプライスが付くと、車体後半を切り落とし荷台を取り付けることで、究極の「リムジン・トラック」を生み出した。中にはピックアップにするだけでなく、さらに車高を上げてオフローダーにするひとまで現れたほど。