試乗 アルファ・ロメオ・ジュリエッタ・スプリント ハンドメイドの不完全さもそのままに
公開 : 2019.06.04 20:10 更新 : 2021.02.02 12:51
手作りならではの不完全さも残す
復活させる作業を通じて、ハンドメイド・モデルが持つ製造品質の特徴も明らかになった。表からは見えない部分、例えばフロントバンパーのブラケットやフロアパネルなどに、かなりの手抜きと思われる場所が散見されたのだ。また、整形されたシャシーの構造材や、バルクヘッド後ろに用いられていた鉄板、フロントフレームまで、手作りならではの秘密も知ることができた。
「補強用の部材はほとんどなく、ショックアブソーバーのアッパーマウント付近も折り畳まれた鉄の板が用いられていたんです。トランクルームの内側は小さな部材が組み合わされており、まるでパッチワーク。シンプルなドアの内部構造は、折り紙のようなボックスセクションで成り立っていました。プロペラシャフトが通るトンネル部分は、ひと組のシートが適正な位置に収まるようにはなっていますが、かなり手荒くハンマーで叩き出されています。ドアの内張りを作り直すさなか、ドアの長さが右と左とで10mmも違うことに気付いたのです。あえて不完全なオリジナリティをそのまま残すということは、ジョンを悩ませたようです」
一通り板金処理が終わると、オールド・コーチワーク社の別の場所にある塗装工場へボディシェルは運ばれた。グレゴリーが手に入れるまでにスプリントは青と赤に全塗装されていたが、オリジナルのボディカラーがブルー・チアリッシモ(クリアブルー)だっということが、グローブボックスの内側から判明した。
「オリジナルのカラーコードを辿って、AR310番が緑がかったかなり鮮やかな青だということがわかりました。初めはその色調がクルマに似合うのが心配でしたが、純正と変わらないセルロース塗料でスプレーされ、シルバーのボディトリムで引き締められた姿を見たら、直ぐに気に入ってしまいました」
「インテリアの特徴的なディティールが、作業を難しくさせました。ドアの内張りは新しいものに置き換わってしまいましたが、オリジナルのシートフレームとシートカバーは、張り直されたシートの内側に残っていました。このシート形状は、初期の100台だけの特徴的なものなんです」 とグレゴリーが説明する。
「初めに生地のサンプルを英国東部のサドベリーにある、ハンフリーズ・ウィービング社へ送りました。小さなサンプルから生地を織り直してくれる、素晴らしい工場です。フロアカーペットも残っていなかったので、古い写真を参考に作り直しました。天井のヘッドライナーとサンバイザーは、グレーのクロスで張り替えてあります」
ハンドメイドとなるモデル初期だけの特徴的なデザインに、ボディと同色に塗られたダッシュボード。ヒンジが下側に付いたグローブボックス・リッド。その仕上がりはかなりスタイリッシュだ。1954年の4月、トリノ自動車ショーのアルファ・ロメオブースに並んだ、プロトタイプのスプリント。そのクルマのドアを初めて開けて乗り込んだ来場者の反応が目に浮かぶ。