伝説のジャガーEタイプ、CUT ディック・プロザーローの生涯
公開 : 2019.06.08 07:50
ジャガーのレース史の1ページに
有名なトラクターメーカー、メイシ一家の出身であったプロザーローのふたり目の妻、ローズマリーは、亡き夫の修理工場を引き継ぐこととした。ふたりは、その出会いもサーキットだった。ローズマリーは、亡き夫を偲んで、メカニックを雇い、新たに1台のレーシングEタイプを作り上げた。
シャシーナンバー860953のこのEタイプは、最初のオーナーであるエド・ネルソンにすでに売却され、ネルソンのために工場で調整中であったが、ローズマリーはこのクルマを買い戻し、ブリティッシュレーシンググリーンのボディを、ロードラッグEと同じブルーのストライプ入りのグレーに塗装し直した。
エンジンも4.2ℓドライサンプに積み替え、CUT8として登録した。つまりCUT8は、プロザーローの死後に生まれたマシンだ。ロディ・ハーベーとベイリーエド・ネルソンのふたりは、ローズマリーが病に倒れるまで2年近く、このクルマにのって全英のジャガーレースで活躍した。そして1968年シーズンの終了後、このクルマは売却された。
ディック・プロザーローは、44年の生涯で、誰もが羨むような功績を残した。限られた予算と不利なスペックのクルマで、彼はジャガーのレースヒストリーに重大な1ページを記した。もしライトウエイトEタイプが彼のものになっていたなら、Eタイプの伝説にさらに大きな貢献をしたであろう。パット・ウェルズは、彼を偲んで次のように述べている。
「彼には頭の先から足の先まで、『ジャガー』という言葉が流れていた。フェラーリステッカーを買って、自分の工具箱に貼った日のことを今でも良く覚えている。彼はそれに気づくと、『そんな下らないものは剥がせ』と叫んだ。彼がフェラーリで命を失ったことを今、思うと、そこには過酷な運命を感じずにはいられない」