アウディR8 e-tron
公開 : 2013.05.30 19:30 更新 : 2017.05.29 18:18
■どんなクルマ?
われわれがこのアウディのオール・エレクトリック・スポーツカーを最後にテストしてから多くの変化があった。アウディR8 e-tronは、2010年当時は4モーターの4WDモデルで、年間1,000台の販売を目標にしていたモデルである。価格はベースとなるR8よりも高い価格設定がされていたようだが、R8とは異なったスタイルやスペースフレーム、1600kgの車両重量などを特徴とするモデルであった。
しかし、2013年の現在、R8 e-tronは、2モーターの2WDモデルで、最近フェイスリフトされたR8をベースとした1789kgのクーペとなった。残念ながら、アウディが想像するよりもバッテリー技術が進歩しなかったことにより、大量生産の可能性は閉ざされた。その代わりといっては何だが、アウディは10台のプロダクション・モデルを1台あたり£850,00(1億3000万円)という価格で制作した。
通常のR8に搭載されるクワトロ・システムを捨て、RWDモデルになったことは、技術的に後退したかのように思える。しかし、アウディはこれについては、RWDで充分なトラクションを得ることができるとして、クワトロ・システムの必要性を否定している。また、その重さを少しでも軽くしたいという気持ちもあったのだろう。
R8 e-tronのモーターは、その大半がドライバーの後ろにセットされる48.6kWhのリチウムイオン・バッテリーによって駆動される。2つのモーターは375.5bhpのパワーと83.6kg-mのトルクを発生し、そのパフォーマンスは、0-100km/h加速4.2秒というタイムだ。最高速度はリミッターで200km/hに制限されている。効率を犠牲にすれば、250km/h以上のトップ・スピードも可能だというが、今回は200km/hにセットされている。
異なるのはパワートレーンだけでなはい。その重さを軽減するために、カーボンファイバーが広範囲に亙って使用されているのも特徴だ。また、モーターは回生ブレーキ・システムとトルク・ベクタリング機能も持たされている。
■どんな感じ?
最初にはっきりしておかなければならないのは、このクルマは決してダルなクルマではないということだ。
スタート・ボタンを押すと、静かだが単調なサウンドがコクピットをつつむ。短くて太いギアレバーをDに入れ、エレクトロニック・ハンドブレーキをリリースすると、R8 e-tronは静かに走りだす。パワーの使用状況、レベル、そして配分を示すメーターがなければ、普通のR8のような感じだ。
心地良いホールドを持つバケット・シートが、スタンダードなシートに代わって取り付けられている。しかし、ステアリング・ホイールはチルト&テレスコピックにアジャストが可能なので、快適なドライビング・ポジションは直ぐに得ることができる。
それよりも、R8と決定的に異なるのはバックミラーの欠如だ。ドライバー後方に搭載される高いバッテリー・パックのカサのため、アウディはリア・ガラスを閉じ、代わりに6.8インチのAMOLEDディスプレイとリア・ビュー・カメラを配置したのだ。最初は、その不自然な装備に戸惑うが、意外と早く順応してしまうものでもある。
e-tronのスロットルを踏むと、即座に電気モーターは、容赦ない加速フィーリングを与えてくれる。ブレーキは、再生ブレーキのもたらす効きと、実際に踏んでいる効きとの感覚が微妙にわかりづらいが、その加速感は電気モーターらしくリニアで自然な感じがある。
そのストッピング・パワーは単体でも強力だが、回生ブレーキによるエンジン・ブレーキもプラスされる。エンジン・サウンドがない分、タイヤの接地感が伝わりやすいこともプラスだが、ステアリングからのフィードバックは良い。そして、意外なことに577kgもあるバッテリーの重さもあまり感じられないというのが率直な感想だ。
予想どおり乗り心地は固い。しかし、快適だ。
アウディのトルク・ベクタリング・システムは、タイト・コーナーでもハイ・スピード・コーナーでも有効だ。フロント・エンドのグリップの限界を察知して、ノーズ・タックを発生させる。トルク・ベクタリングによって後輪がブレーキをかけられている感触は独特の感覚だが、満足のいくものだ。
e-tronの速さは実に魅力的で自然なものだ。内燃機関がないことなど忘れてしまうほどだ。予想どおりトラクションとグリップは高く、アジャスタブル・ドライブ・モードとスタビリティ・コントロールのおかげもあって、充分に楽しめるドライビングが味わえる。しかも、安全でコントローラブルで、決定的には速い。他のハイ・パフォーマンス・アウディと同様に、簡単にそのパフォーマンスを引き出すことが可能なのだ。
e-tronには面白いエンジニアリングも採用されている。例えばホイールのフラップだ。これは50km/h以上になると遠心力によって自動的に閉じられCd値を0.02減らす。速度が50km/h以下になると再びフラップが開き、より多くのエアをカーボン・セラミック・ブレーキに導くというものだ。
しかし、アウディR8 e-tronの加速力や航続距離について語るのは本質ではないかもしれない。アウディはこのクルマでパフォーマンスと効率のバランスを示したかったのだと思うからだ。
■「買い」か?
215kmという航続距離と、1時間未満というチャージ・スピードではあるが、アウディはこの数値には満足していないのだろう。それが実際にR8 e-tronを発売しない理由だろう。
もし、電動モーターのスーパーカーが欲しいのであれば、メルセデス・ベンツSLS EDという選択肢がある。£302,000(4600万円)という価格で、0-100km/h加速3.9秒、そして250km/hの最高速を持つ。しかし、その航続距離はe-tronと大して変わらない250kmにすぎない。
(ルイス・キングストン)
アウディR8 e-tron
価格 | NA |
最高速度 | 200km/h |
0-100km/h加速 | 4.2秒 |
燃費 | NA |
CO2排出量 | 0g/km |
乾燥重量 | 1780kg |
エンジン | 電気モーター×2 |
最高出力 | 375.5bhp |
最大トルク | 83.6kg-m |
ギアボックス | シングル・スピード |