英国が生んだエキゾチックモデル ツインカムのMGA 60周年を祝う

公開 : 2019.06.29 07:50  更新 : 2020.12.08 10:40

圧縮比9.9:1のツインカム4気筒1588cc

1955年、アイルランド北部で開催されていたアルスターTTレースに、MGが正式にエントリーを始める。その時に用意された3台のクルマが、ツインカムエンジンを搭載したMGAだった。エンジンは実験的に2種類が作られた。ひとつはオースティン社がまっさらの状態から設計したもので、もうひとつはモーリス・エンジン社のジミー・トンプソンとエディー・マアーによって開発された、Bシリーズと呼ばれるブロックを流用したもの。もとはBMC社のジェラルド・パーマーが設計したものだ。

最終的に結果を残したのは1489ccのプッシュロッド式から69psを発生させていた、モーリス・エンジンのものだった。欧州大陸が生み出すライバルのスポーツカーより、MGAを優れたクルマにすることが目標とされていた。MGがツインカムエンジンを量産化した当初は、1489ccのままだったが、追ってレースのカテゴリー分けの都合で排気量は1588ccにまで拡大された。

カムシャフトは堅牢なチェーン駆動となっており、アルミニウム製のクロスフロー・ヘッドを備えている。SUのH6キャブレターを2基装備し、圧縮比は9.9:1。コンロッドは断面形状がH型の鍛造品。クランクシャフトは強度を高めるために3枚のベアリングで支持されている。Bシリーズのブロックのボアは75.4mmにまで広げられ、冷却フィンを備えたアルミ製のオイルパンを備えていた。そのかわり、手が加えられたエンジンは通常のBシリーズより27kgほど重くなっている。

MGAツインカムのアピアランスの特徴は、ダンロップ社製のホイール。他にもインテリアパネルはレザー張りとなり、4輪ともにディスクブレーキを装備する。「ツインカム」のエンブレムが誇らしい。当時の価格は税込みで1265ポンド(18万円)。109psを発生させ、最高速度は185km/hに達した。標準のMGAが160km/hだったから、かなりのパフォーマンス向上だといえる。0-96km/h加速は標準モデルより1.7秒ほど短縮の13.3秒。0-144km/h加速でもプッシュロッドより15秒ほど速く、30秒で到達できた。このプレミアムなスペックを得るには、標準のMGAに180ポンド(2.6万円)上乗せする必要があった。

ツインカムエンジンを搭載したMGAは、当初2500台の販売を計画していたが、最終的にオーナーが見つかったのは2111台。MGA自体がスムーズな走りを得られておらず、ノイズや信頼性の問題から、販売は伸び悩んだようだ。実は、エンジンの吹け上がりが極めて良いものの、回転数を上げすぎるとピストンがバルブに当たる悪癖を持っていたのだ。

ガソリンはオクタン価95以上が推奨で、点火プラグはN5の指定となっており、レース出場時などは100RONにN58Rの組合せとなっていた。ちなみに、レーシングカー用のエンジン開発を行っているバンダーベル社(現在はマーレー社のグループ企業)は、当時としては珍しい、7500rpmまでの回転数を許容した特徴を活かし、新しいメタル・クランク・ベアリングのテスト用エンジンとして用いていた。

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