英国が生んだエキゾチックモデル ツインカムのMGA 60周年を祝う
公開 : 2019.06.29 07:50 更新 : 2020.12.08 10:40
勇ましいプロトタイプのツインカム
「午後になって、誰がいい出したのかはわかりませんが、ラップタイムを競うことになったんです。それからはタイヤ交換をして、乗り換えて、の連続です。レーシングドライバーのポール・フレールがトップタイムで、2番手がジャーナリストのジョン・ボルスター。私は悔しいことに3番手でした。トップとビリの間にはかなりのタイム差があり、一番遅かったのはモータースポーツ誌のビル・ボッディでしたね」 これが今回の再現イベントの起源となっている。
「無事にイベントが終わって、散らかったビール瓶を片付けて、クルマを戻そうとした時に気付いたんです。朝より1台クルマが少ないことに。もう、パニックですよ。サーキットを順に回って探していくと、コンクリート製の車止めに刺さった状態で、見覚えのないふたりが乗ったMGAツインカムがありました。確認すると若いメカニックが運転していて、助手席に乗っていたのは、バンド演奏で出演していたコルネット奏者。彼は骨盤を骨折していました。それをきっかけに、音楽家の労働組合と大きな関係を築いてきました。われわれが取り組んできた、他にはない労使関係の問題のひとつですね」
取材の終盤、イベントの発起人、マーク・ヘスターはPJB 147のナンバーが付いたクルマの鍵を渡してくれた。1958年製のプロトタイプの1台だ。「7200rpmを超えると、バルブが吹っ飛びます」 と簡単なアドバイスを添えて。
エンジンのサウンドはなかなか勇ましい。チェーン駆動されるカムのメカニカルノイズが響く。同時代の他のツインカムエンジンほど、メロウなサウンドではないが、リニアに回転し元気に溢れている。このエンジンがプロトタイプのものだと考えると、量産型はポテンシャルを上手く引き出せていないようだ。
着座位置はかなり低く、サイドシルとプロペラシャフト・トンネルの間に座っている感じがスポーティな雰囲気。操縦性は正確で、伝わってくる感覚も鮮明。スリムなゲートが切られた4速MTとツインカムエンジンという組み合わせが素晴らしい。ステアリングのやレシオ、ダイレクトなフィーリングなどは、堅牢で剛性のあるシャシーだから叶うもの。ハンドリングは穏やかで、乗り心地も落ち着いている。
周年という貴重なイベントだが、いかんせんこの日の気温は還暦を迎えるクルマには暑すぎた。エンジンはさほど回さないように気をつけつつ、早めにクルマの鍵を戻すことにした。1958年の夕暮れ時の様に、コースアウトしてクラッシュしてしまう訳にはいかない。何しろ貴重なクルマなのだ。
それでは、今回の参加車両を順に紹介していこう。