試乗 マセラティMC12 エンツォ・フェラーリの心臓を持つロードゴーイングGT1
公開 : 2019.07.06 07:50 更新 : 2020.12.08 10:40
轟音に包まれるレースカーそのままの車内
リアセクションもどこか動植物のデザインを想起させる。リアウインドウはないかわりにスリットの入ったカウルが覆い、巨大なウイングがそびえ、フロントよりは人工的。フロントノーズの両端に取り付けられたヘッドライトにはカウルがなく、テールランプもエンジンの効率を最大限に優先させているようだ。ランプ類は後付された雰囲気すらある。合法的に、下品にならないギリギリのラインに留まっている。
この注目を集めないわけがないアピアランスだから、路肩の歩行者は突然姿を現したMC12に驚きを隠せなかっただろう。何しろ、オーナーのアレックス・バビントンは、今回の取材のために積載車を利用すると聞いていたのだが、キャンセルして自走してきたのだから。ウィンブルドンにあるガレージ、ジョー・マカリから、40kmほど離れた今回のテストコースまで、ロンドンの渋滞も抜けてやってきた。
だからといって、マセラティMC12が実用的なロードカーにもなり得ると、勘違いしない方がいい。エンツォがバタフライドアなのに対し、一般的な横ヒンジのドアを採用していたとしても。だが、MC12への乗り降りは比較的簡単。少し注意しながら、青いレザーで覆われたカーボンファイバー製のバケットシートへ身体を滑り込ませればいい。運転席は左側にある。
新車当時、MC12を試乗したテスターは、スーパーカーの標準と比較して充分に豪華だと評価していたが、私にとってはレースカーがベースの、スパルタンなものにしか見えなかった。明らかに太い横転に備えたロールゲージのパイプが走り、エンジンルームを隔てる防火壁が後方視界を閉ざす。キーをONにして青いエンジンスタートボタンを押さずとも、グランドツアラーというより、レースカーそのものの雰囲気だ。
エンジンが目をさますと、キャビンはカムとプーリーのメカニカルノイズで包まれる。防火壁でエンジンサウンドが吸収され、聞こえてくるのはセメントミキサーの巨大版のような轟音。もちろん、最近流行りのサウンドエンハンサーなどは備わっていない。
いざアクセルを踏もうとするも、ミラーや信号、操作のひとつひとつの重要度が極めて高い。ドアミラーは左右にふたつ付いているが、僅かな後方視界を与えてくれるだけで、特にクルマの直近にある沢山の死角は埋めてくれない。おかげでクルマの幅が極めて広く感じられる。クローズされたサーキットであっても、慎重にならざるを得ない。