試乗 マセラティMC12 エンツォ・フェラーリの心臓を持つロードゴーイングGT1
公開 : 2019.07.06 07:50 更新 : 2020.12.08 10:40
首が痛くなるほどの加速度
マクラーレン・セナのようにエンジンが遠吠えし、右のパドルを1度タッチすると1速に入った。セミオートマティックだから、足元にはペダルがふたつだけ。スロットルペダルへの操作は極めて鋭く、タコメーターの針が驚くスピードで回転し、警告灯が灯る領域の手前でパドルを弾く。
通常ならこのサーキットは、3速に入れたあたりでコーナーに向けて減速し、緊張感を味わう場面だが、マセラティは3速だと加速の途中。レブリミッターに当たる直前を意識しながら、シフトアップを繰り返し、MC12は5速まで使って加速する。首が痛くなるほどの加速度で、ストレートを突き進む。ロードリーガルなGTカーではなく、ミュルザンヌを突き進むグループCカーのようだ。
12気筒のエンジンはサーキットの周囲に反響しキャビンに歪んで響いてくる。変速の度にキャビンは激しく共鳴し、荒れた路面を通過すると賑やかなロードノイズも加わる。これみよがしなエグゾーストノートもテールエンドから解き放たれる。最高速度329km/h、最高出力630ps、0-96km/h加速3.8秒のスーパーマシン。スペック通りに速い。
迫る低速コーナーに備えて3速に落とす。コーナー入口まではぐっと我慢。スピードメーターに一瞬目を落とすと100km/h程で、エイペックスめがけてノーズの向きを矯正する。エンツォ・フェラーリのようにマセラティMC12にはセラミック・ディスクブレーキという装備がない。トライデント・エンブレムが跳ね馬に及ばないポイントのひとつだ。だがブレンボ製となる、コンパクトカーのタイヤより大径のドリルドローターは、4点ハーネスで身体を支える必要性を実感できるほどに、クルマのスピードを強制的に削ってくれる。
カーブの続くセクションで、クルマの持つ性格が際立ってくる。エンジンが吠え、滑らかにシフトアップし、スピードが上昇していくにつれて走りも流暢になる。低回転域では居心地の悪そうなエンジンと似ている。シフトチェンジの速度は、メーカーが公表している時間ほど速く感じられない。また41:59とかなりリヤ寄りな重量配分が、コーナーの切り返しでは不安定さを浮き彫りにする。