試乗 マセラティMC12 エンツォ・フェラーリの心臓を持つロードゴーイングGT1
公開 : 2019.07.06 07:50 更新 : 2020.12.08 10:40
徐々に姿を見せるGT1レーサーの本性
だが、コーナー手前でしっかり減速すると、マセラティのコーナリング性能の高さに衝撃を受けた。ボディロールはほぼ発生せず、横Gが掛かり、床に落ちて見失っていた小銭が転がる音がカーボンファイバー製のシャシータブから聞こえる。ボディサイズに対する不安は徐々に消えていき、コーナーを抜けていくほどに、マセラティはGT1レーサーの本性を表していく。
大きく湾曲したフロントガラスと、幾本もスリットの入ったフロントフェンダーの峰が、優れた前方視界とタイヤの位置感覚を与えてくれる。コーナーのイン側にMC12を進めていく自信が生まれてくる。このまましばらく走っていたいと感じた頃に、悲しいことにタイムアップとなった。
ガレージから公道に出て、通勤に使うようなことは想像できない。だが、途中で厄介な警察官に出くわしたとしても、たどり着いたサーキットでの走りは疑いようもなく素晴らしい体験だ。
マセラティMC12が2004年に発表された時、多くの人々はその内容に困惑した。ベースとなったクルマよりも内容的に劣る、マセラティ製のボディをまとったスーパーカーに、大金を払う理由を見つけることができなかった。サスペンションもコンベンショナルで、ブレーキも最高出力も、トップスピードもエンツォより劣っていたのだ。リアウインドウがないことで後方視界は皆無だから、実用性も期待できない。加えて新車当時、世界で最も高価なクルマでもあった。
MC12を構成する部品をすべて集めたとしても、当時の新車価格を超えることはなかったはず。エンツォ・フェラーリを差し置いて、MC12を新車で購入したオーナーは、情熱に掻き動かされた一部に過ぎなかった。しかし今では値は釣り上がり、250万ポンド(3億6250万円)は下らない。
今でもこのクルマを購入するには相当な情熱が必要なことには変わりはない。しかし、理性を忘れて心のままにクルマを選べるという幸せも、この実態を知ってしまうと、理解できないものではないのだった。