V型12気筒エンジン、なぜ魅力的なのか 近づく惜別のとき 理由を探る
公開 : 2019.07.20 18:50 更新 : 2019.07.20 19:11
V12の魅力 洗練とパワー
では、なにがV12を最高のエンジンにしているのだろう? 個人的には、ふたつの要素が生み出す見事な相乗効果が、V12に特別な価値を与えていると信じており、それは、このS65に乗ってわずかな距離を走るだけでも、十分理解することができる。
ひとつめはV12が誇る高い洗練だ。直列6気筒エンジンは、その完ぺきなバランスによって一次振動と二次振動を打ち消しているが、このエンジンをふたつ合わせたV12でも、当然この完ぺきなバランスを味わうことができる。
さらに、排気量にかかわらず、2倍の気筒数がさらなる滑らかさをもたらしており、この滑らかさこそが、そのスポーティーなキャラクターが認識される以前から、高級車メーカーがこぞってV12エンジンを採用してきた理由だった。
早くも1916年には、パッカードから史上初となるV12エンジンを積んだカタログモデルが登場しており、キャデラック、リンカーン、そしていまは亡きオーバーンにピアスアローといった、本物の米国高級ブランドもすぐに追随している。
だが、V12の特徴はその滑らかさだけに留まらない。コンパクトな駆動部品がもたらす小さな慣性モーメントが、より高回転を許容することで、同じ排気量を持つV8やV10を上回るパワーを発揮することを可能にしており、だからこそ、フェラーリはその71年の歴史でつねにV12をラインナップし続けてきたのだ。
さらに、そのサウンドも素晴らしい。これまで、フラット6やV8、V10、さらにはV16といった、さまざまなエンジン形式から、驚くほどのサウンドを放つモデルが登場しているが、自分の葬儀で流して欲しいと思うのは、他のどれでもなくV12のサウンドであり、低回転から中回転へ、さらにはレッドゾーンへと迫るときの、強烈で純粋なサウンドはV12でしか味わうことはできない。
フェラーリ250 GTOが積むジョアッキーノ・コロンボ設計のV12や、ジャガーのル・マン参戦マシン、XJR-9が積む7.0ℓV12、フォーミュラ1や1970年代のスポーツレーシングカーで使われたマトラV12のサウンドを聞けば、わたしの言う意味を理解していただけるだろう。