ポルシェ/アストン/ジャガー チーフエンジニア鼎談 スポーツカーの未来は安泰
公開 : 2019.07.20 11:50
組織vs個人? 極秘プロジェクト
――自動車世界での成功でもっとも重要なものは何? ある特別な企業文化? それとも組織における個人?
ベッカー:アストン マーティンCEOのアンディ・パーマーは、本物のクルマ好きでもあります。彼が住んでいるのは、ここシルバーストンの目と鼻の先であり、これはある意味素晴らしいことです。彼はレースにも参加しており、そのクルマに対する愛情は本物です。わたしの仕事を信頼してくれてはいますが、彼自身の見解というものもあり、自らが専門家ではないとしながらも、彼の意見はときに貴重な気付きをもたらしてくれます。われわれが考えもしなかった点を指摘してくれるのです。彼の情熱が組織全体に広がっています。
プロイニンガー:ポルシェトップも全員クルマ好きですが、ポルシェ全体がそうだと感じています。ポルシェの離職率は非常に低く、同じ仕事を10年以上続けている、経験豊富なスタッフが大勢います。ヴァイザッハの全員が、本物のエンスージァストなのです。自らのためにクルマを作り、そこらじゅうを走り廻るのです。そのことは、すべてのポルシェで感じて頂けると思います。
――いまも伝説的な極秘プロジェクトは存在する?
ベッカー:はい。それが賢明な方法だからです。プロダクトプランニングやマーケティング部隊もそれぞれアイデアを持ってはいますが、彼らにはエンジニアの視点が欠けています。さまざまな要素を1台のクルマに落とし込む術を知り、毎日そうした作業を行っているからこそ、エンジニアは特別な何かを創り出すことができるのです。これが極秘プロジェクトの本質であり、かつてロータスで見られたものです。そして、オリジナルのV12ヴァンテージも同じような方法で産み出されたモデルであり、アストン最高のドライバーズカーの1台となっています。
クロス:やるべきことは1台のクルマを創り出すということであり、それが出来れば、社内を説得するなど非常に簡単です。
プロイニンガー:いくつかのモデルに関しては、パワーポイントを使ったプレゼンなどなんの役にも立ちません。しかし、敢えてリスクをとって、実際のモデルを創り出すことができれば、コンセプトを具体的に示すことができるのです。
ベッカー:ボッシュのようなサプライヤーのスタッフと一緒に、公道テストへと出掛けたとき、夜ビールを飲みながら彼らに、「トラクションの状況を学び、まるでレーサーと同じようなレベルにまで制御を最適化することのできるトラクションコントロールが開発できれば、最高ではないでしょうか?」と、話したことがあります。そして、実際に突然開発が開始され、1年後には、まさに話したとおりのシステムが出来上がっていました。ビールがすべてを解決してくれることがあるのです。