正確ではないスピードメーターでSSに挑む

しかし、走りに支障が出るほどではない。キャビンは広々としており、ドライビングポジションも良好。パゴダルーフと呼ばれた中央の凹んだハードトップも付いてるから、頭上を流れる気流を気にする必要もない。

出場者は30秒のインターバルを置いて次々にスタートしていく。われわれは熱狂する沿道のファンをすり抜けながら進む。マーシャルが一生懸命にスタート地点へ誘導する。時間通りに定位置に付き、スタートランプが灯った。旗がなびかれ、僕たちのはじめてのクラシックラリーがスタートした。

230SLラリーの先を走るのは、カール・ヴェンドリンガーがドライブする1955年式の190SLレンスポルト。スタートしてすぐに姿が見えなくなる。この区間に設定されたターゲットスピードは38km/h。すぐにジルヴレッタ・ホッハルペンシュトラーセ料金所の手前にたどり着いた。ヘアピンの続く山岳路の両側には沢山の観衆がいる。構わずそのままビーレルヘーエへ進む。標高は1800m付近だ。オーストリアの山中、シュタウゼー・コップス湖とツァイニスヨッホ貯水湖の美しい眺めが素晴らしい。チロル州とフォアアールベルク州の境を縫って進む。

しばらく走って、ラリー初めてとなるスペシャルステージ（SS）に入る。この区間は5250mの距離を7分40秒で走ることが目標となる。僕の脳みそには少々オーバーロード気味。ペアを組んでいる、コ・ドライバーのコーエンが平均スピードを算出してくれた。けれど、実際どんなペースで走れば良いのかわからない。彼はストップウォッチを見つめる。

アクセルペダルは穏やかな操作が難しく、230SLラリー「パゴダ」のスピードメーターは正確ではない。そんな感じだから、あまり真剣に考えないことにした。横目に見るヴァンダンスのスキーリフトは動いていない。さらに70kmほどの区間は、シュルンスを過ぎて、ゴルティポール、ジルバータール、バルトロメベルクなどのスキーリゾートを巡る。スペシャルステージの難易度も上がっていく。最善を目指す志はあるが、あくまでも任意ではある。

最後の25kmほどは、ガルゲヌルとガレンキルヒを経てパーテネンへと戻るルート。晴天だった天気は変わり、雨が降ってきた。1日中走った疲労感が車内を満たす。僕たちはかなりの区間をノンストップで走った。パートナーのコーエンは、お昼ご飯になったナッツの袋詰には満足していない様子。「あんなのは鶏のご飯だよ」　会話の内容はゴールした時の振る舞い方になりながら、今日のタイムシートをスタッフへ渡した。

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