ジャガーC-X75

公開 : 2013.06.21 20:00  更新 : 2017.05.29 18:38

■どんなクルマ?

ジャガーC-X75は市販されず、そして完成されることもない悲劇のスーパーカーだ。スーパーカーの年とも言える今年2013年に、史上最強の3台のスーパーカー軍団、ラ フェラーリマクラーレンP1、そしてポルシェ918スパイダーのグループがデビューのとは対照的に……。

ジャガーが昨年の12月に、このハイブリッド2シーターを市販しないことが決められたことで、C-X75は”失われた巨人”として扱われることが運命づけられた。

イギリスのメーカーが市場における食物連鎖の頂点に立ち、再び自動車の技術開発の先頭に立つという新たなる野心は、皮肉にも1億円のライバル、マクラーレンやフェラーリを上回る必要があったかもしれなかった。それはあたかもルネッサンスのようだった。

しかし、残念なことに、周知のことながらゲイドンのスーパーカー・プロジェクトは終了してしまった。5台のプロトタイプが現存するが、それ以上を製作する予定はない。今後競売にかけられる可能性は残されているが、いずれにせよまた何も決まっていないという。そういった奇妙な状況の中でのテスト・ドライブだった。

ジャガーC-X75は当初の空想的なコンセプト・モデルから、より現実的な実験用プロトタイプに突然作り変えられたという経緯がある。

コンセプトカーとしてパリ・モーターショー2010に登場した際に取り付けられていた、発電用小型ガスタービンはどこへいってしまったのだろうか? フェラーリやマクラーレンがそうであったように、スーパーカー向けレシプロ・エンジンにこういった技術を組み付けるのは、やはり時期尚早であったということかもしれない。

C-X75コンセプトカーに対する周囲の期待は、無視するにはあまりに大きすぎた。2011年5月に決まったウィリアムズとの車体共同開発によって、良い方向へ進むと考えられた。

だが、ショーカーがそうであったように、C-X75は単なるスーパーカーであってはいけなかったのだ。公開されていたショーカーと同じ見た目を実現しながら、ブガッティ・ヴェイロン並みに速い上に、トヨタプリウスより低いエミッション、それこそシボレー・ボルト並みのゼロ・エミッションが前提として求められていた。

ジャガーC-X75は、相反するスピードと燃料消費率の両方を一流に仕上げるべく努力し続けたのだが、このクルマが限界を突破し、製品として世に出るためには、現状の数値ではまだ足りなかった。

■どんな感じ?

ブレイドン・ジェット製のマイクロガス・タービンの代替を利用するために、ジャガーのエンジニアはエンジンのパッケージングの自由度とクーリングに努力する必要があった。結果、ジャガーで開発された1.6ℓの4気筒ガソリン・エンジンは非常に小型でオール・アルミニウム製だ。

スーパーチャージャーとターボチャージャーが装備され、それらは10000rpmで502bhpと、その大きさからは信じられない大パワーを発生する。さらにジャガーC-X75はプラグイン・ハイブリッドであるからして、エンジンに要求される能力は半分だ。

フロント、リア・アクスルのほぼ中央に位置するドライバーズ・シートのすぐ後ろに設置される19kWhのリチウムイオン電池は300kWのパワーを常時発生することができる。

このパワーを動力に変換するモーターもジャガー内製だ。ケーキ缶ほどの大きさで、全てのアクスルに一つずつ設置される。これらのモーターはそれぞれ194bhp、40.8kg-mを作り出す。一つのモーターの重量は20kgで、1kgあたりの換算だと、現在購入可能などのジャガーのモーターよりも効率的だ。

発生した電力によりリダクション・ギアを介して直接フロントが駆動する他、リアに関してもエンジン出力と平行してパワーが伝えられる。エンジンの出力は7速ロボダイズド・マニュアル・ギアボックスを介して後輪に伝えられる。

そして全能力を発揮した場合、C-X75は850bhpものパワーと102.0kg-mものトルクを叩きだす。0-96kmは3秒以下、0-160kmは6秒以下、トップ・スピードは322km/hまで達する。

バッテリーのパワーのみでおよそ64kmを走行できるため、信じられないことに、NEDCの排出テストにおいてCO2排出量は89g/kmを達成した。また、C-X75の素晴らしいスタイリングは、同じジャガー製スーパーカーのXJ220やXJR-15と比べれば、マルコム・セイヤーのCタイプやDタイプ、XJ13などの正当な後継者に見える。

カーボンファイバー製のボディは1度あたり60000Nmのねじり剛性を備えるが、これはランボルギーニムルシエラゴの3倍の強度である。

主要なメカや電装品は、7速ギアボックスを除き全てホイールベース内に収まる設計だ。例外の7速ギアボックスはリア・アクスルの背後のオーバーハングに、スペースを最小限とするため横置きで配置されるのだ。

31度が最適環境の巨大なバッテリーと、最大900度にまで温度が上昇するエンジンを同じスペースで共有するために、熱管理のシステムはとんでもなく複雑になっている。そもそも、それらは200度で焼かれ成型されているカーボンファイバー製エンジン・ベイによって囲まれる。

雨の降りしきるゲイドンのジャガー本社にて、われわれは彼らからその技術的アイコンを試す機会が与えられた。ツイスティなハンドリング・サーキットにおける同乗走行で、C-X75は素晴らしく扱いやすいハンドリングの片鱗を見せた。「このクルマにジャガー・フィールを与えるまで、様々な困難が付きまとった。」このドライブを担当したシャシー開発担当のウィリアムズのエンジニア、サイモン・ニュートンが語った。その意味は伺い知れるだろう。

クルマはスキッドした。「EVモードのパワースプリットは通常70%のパワーが後輪に配されるが、アンダーステアが誘発されるためコーナリング時の前輪へのパワーは制限される。我々はさらにスロットルステアを追加するべくEデフに手を加えた。また、コーナーの進入でノーズをタックさせるマクラーレンの『ブレーキステア』に類似するESP技術を導入した。」

EVモードでも力強いパフォーマンス・レベルを感じた。ターボのホットハッチを想起させるような力強いトルク感だが、全てにおいてラグは感じない。電気モーターのサウンドを伝えるのは難しい。なぜなら、C-X75に装備される、キャビンに擬似エンジン音を発生させるサウンド・シンセサイザーによってかき消されてしまうからだ。EVモードをもっとドラマティックにする仕掛けではあるが、実際のエンジン音と間違えるようなことはないだろう。

さて、私がドライブする番だ。ハイブリッド・モードで発進すると、4気筒エンジンが主張を始める。低回転ではあまりアピールしない音だが、スーパーチャージャーによりアクセレーションのフィーリングは整えられている。

ゲイドン本社のハイスピード・サーキットには1マイルに及ぶストレートがあり、ここでC-X75の持つスピード、特にパワートレインのポテンシャルを精査することができる。3500rpmにおいて、エグゾーストの排気音がクルマ全域に響き渡るようになる。

6500rpm以上になるとエンジンが完全に目覚め、鋭い咆哮を放つ。中速域のトルク、トップエンドのフレキシビリティともに抜けはない。そしてレブ・リミットの8000rpmに至っても信じられないくらいパワーが伸びていく。この段階で電気モーターやカーボンファイバー、緻密なエンジニアリングの存在を忘れ、純粋に機械を操る楽しみに浸ることだろう。このジャガーは古典的なスーパーカーだ。

雨の中でも、C-X75の性能は十分に感じられる。4速ギアのトップスピード、およそ190km/hのレンジまでは、おそらくブガッティ・ヴェイロンと競ることができる。

240km/hまでの間でも、C-X75にはウェービングや途切れなどが発生せず、スムーズに加速する。まったく簡単に加速し、実際速いのだが、トップ・スピードの域において世界最速に到達するには程遠い。ヴェイロンのようにすべてを開放しているというわけではないのだ。

言わせてもらえば、電気モーターがトップ・スピードを確保するためのベストな選択肢とはならない。そして503bhpのパワーはとても十分ではないが、それをカバーするかのようにクルマ自体は非常によくできている。

■「買い」か?

当然ながら買うことができない。しかし実際にドライブして感じたことだが、C-X75プロジェクトは正しい段階で終了したように思える。スーパーカーのオーナーなら理解できるだろうが、開発陣が新たな1億円クラスのクルマを開発するに辺り、大きな視野を持っていただろうか。

というのも、C-X75が最も強烈なマシンではないことを彼らも理解しているが、果たして彼らの売りが純粋なスピードに勝るものだろうか。CO2の排出量を気にしているヴェイロン・オーナーがどれだけいるだろうか。彼らは純粋に最も速いクルマを欲しているのでは?

おそらくは彼らも理解しているはずだ。ジャガーはこのスーパーカーの開発を続けるに辺り、多分顧客を無視するわけにはいかなかったのだろう。それは勇気ある決断だったかもしれない。しかし、同時にこのモデルの開発が、全ての面で悪影響だったわけではない。

なぜなら、世界最速のクルマではないかもしれないが、それでもC-X75はモダンで大胆なマシンだからだ。これまでのスーパーカーの定義に照らし合わせ正当化するならば、間違いなくハイパーカーだ。

我々は21世紀ではカーマーケットのどのような分野においても、環境への責任は無視できないことを認めざるをえない。そして、ポルシェ918スパイダーが示したように、スピードと興奮に最大のプライオリティを置きながら、同時にゼロ・エミッションを達成するクルマを作ることはできるのだ。

(ニック・カケット)

ジャガーC-X75

価格 NA
最高速度 354km/h
0-100km/h加速 3.0秒
燃費 NA
CO2排出量 NA
乾燥重量 1700kg
エンジン 直列4気筒1600ccツインチャージャー+電気モーター×2
最高出力 850bhp+/10000rpm
最大トルク 102.0kg-m
ギアボックス 7速ロボタイズド・マニュアル

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