フェラーリ製V8ツインターボ マセラティ・レヴァンテ・トロフェオに試乗 590psのテノール
公開 : 2019.08.22 09:50 更新 : 2022.08.08 07:55
右足を動かすのが楽しくなるサウンド
レヴァンテはATのみだが、フェラーリが開発したエンジンの素晴らしさは目減りすることはない。0-100km/h加速はローンチコントロールを用いれば3.9秒でこなし、パフォーマンスは充分。エグゾーストノイズも思わず笑顔が溢れる響きだ。
赤く結晶塗装されたカムカバーはイタリア製エンジンの伝統。スポーツエグゾーストはスポーツモードを選択するとバイパスバルブが開き、白眉の音響を生み出す。レンジローバー・スポーツやジャガーFペースSVRで得られるような、派手な轟音を聞くことはできない。だが、回転数を上げるほどに咆哮は大きくなり、アクセル操作に合わせて破裂音や雷鳴のような唸りを鳴らす。素晴らしいボリュームのテノールに、右足を動かすのが楽しくなる。
ピークトルクの発生は2500rpmからだが、それ以下の回転数でもかなり力強い。ターボラグもほとんどなく、トルクカーブはフラット。レブリミットの1000rpmくらい手前での回転上昇は一層鋭く、V8エンジンの刺激は最高潮に達する。つまり狭い旧市街地の道でも扱いやすく、ポルシェ・カイエン・クーペ・ターボ並みに速い。
トランスミッションはおなじみのZF製8速AT。オートモードではスムーズでキビキビとした変速を披露するし、ステアリングコラムに固定されたパドルを弾けば、150ミリ秒という瞬間技で変速を決めてくれる。
活発に路面を蹴り進む運転の楽しさ
より積極的な設定を得たドライブモードの「コルサ」を選んでいても、脚周りはイタリアの傷んだ路面をうまく処理してくれ、カイエンのスポーツ+モードより我慢いらず。スチールコイルではドイツ製のライバルモデルよりも処理で劣るのかもしれないが、エアスプリングの生む親しみやすさは悪くない。
車体は大きく、最終的にはボディ・マスを実感させられるが、活発に路面を蹴り進むトロフェオの運転は驚くほど楽しい。ESPは知覚できないうちに4輪それぞれを個別にブレーキングさせ、アンダーステアを抑え込み、クルマの向きを変えていく。加えてスカイフック・アダプティブダンパーは路面と呼吸を合わせるかのように、ボディの揺れを抑える。
限界近くまで攻め込んでいくと、大きな起伏では、イン側のタイヤがやや浮き上がるような印象もあるし、ボディロールに伴い外側のリアタイヤへ荷重が高まってしまう。しかし湿った低速コーナーでスロットル操作を積極的に行えば、テールアウトさせることも可能だ。
そこまで気張らなければ、変速も軽やかに潤沢なトルクをシームレスにタイヤへ伝え、コーナーを素早く交わしていく。コーナリング途中でのライン変更は余り好まないクルマがゆえに、進入時の操作やスピードは適正である必要はある。しかし、高い満足感が得られるだろう。
ダイナミクス性能で気になる部分となると、ステアリングだ。クイックで正確性も高いのだが、スポーツモードやコルサモードでの重み付けとフィードバックが、やや人工的な雰囲気がある。コンフォートモードが一番自然なのだった。このコンフォート状態での、静かで柔らかいレヴァンテ・トロフェオは、エアスプリングのしなやかさも加わり、とても快適なクルーザーとなる。