メルセデス・ベンツXクラス オーストラリア試乗 積荷はビール 豪アウトバックめざす 後編
公開 : 2019.09.01 18:50
ようやく到着 ビールで乾杯
西へ向かうと太陽がボンネットを赤く照らし、その背後に広がるのはほとんど先が見えないような埃っぽいダートであり、姿を現したときと同じような早さでフリンダーズの山々が見えなくなると、ルームミラーに写っているのは広大なアウトバックの荒涼とした景色だけだった。
いまや時間との競争であり、敵は太陽とドライバーを驚かせるカンガルーだが、カンガルーはプレーリーホテル名物のFMG(Feral Mixed Grill:野生動物のミックスグリル)を代表する食材でもある(FMGではエミューとラクダの肉を選ぶこともできる)。
さらに西へ進むと道路のコンディションは良くなり、パラチルナの町へと続く最後の舗装道路が、ようやく岩と埃から解放してくれることとなった。
空の色がピンクがかったオレンジへと変わっていくころ、ようやくビール樽の荷下ろしを始めることができた。
樽を下ろすたびに、Xクラスのリアサスペンションは安堵のため息を漏らしたに違いなく、テールが徐々にフロントと同じ高さへと上がっていく。
すべてのビール樽を下ろし終えると、ようやくX250dは本来の姿勢に戻ったが、その頃には地平線にすっかり溶け込んで、その姿はよく見えなくなっていた。
いまや太陽は小さな虫たちを道連れに、完全に地平線の向こうへと沈んでいる。
それだけでビールの1杯や2杯を楽しむには十分な理由であり、FMGのご馳走が待っている。
番外編:Xクラスで行く大陸中心
どこからスタートするにしても、オーストラリア大陸の中心へ向かうというのは、何千kmもの道のりと、数百万匹もの虫との衝突、呼吸器官に重篤な障害をもたらすには十分な量の砂埃を経験しなければならないことを意味している。
オーストラリアの海岸線から乾ききった赤い大地の中心へと向かうには、有料道路や傲慢なフランス人ドライバー、そしてロードサイドのコーヒーショップなどはないが、これが欧州であれば5カ国を通過するほどの距離の旅となる。
中心を見つけ出すというのは決して簡単な仕事ではないが、ほとんどのものが、オーストラリアへの入植開始200周年記念事業によって、769万2024平方キロメートルにも及ぶこの大陸の重心点とされたランパード・センターへと足を運ぶことだろう。
専用道(もしこれを道と呼ぶならだ)まで備えるとともに、ここが大陸の中心であることを示す標識と、国会議事堂の上に掲げられているフラッグポールの実物大レプリカまで設置され、いまではトイレまで完備している。
それでも、1988年以前には文字通り、ランバート・センターは地図にも載っていなかったのであり、この大陸の中心は別の場所にあった。より正確に言えば、4つの地点が中心地を主張していたのだ。
1世紀以上もの間、オーストラリア大陸の中心を計算するには、少なくとも5つの方法が使われていたのであり、そのどれもが地図上では非常に近い場所のように見えるが、実際にはアイルランドほどの広さの場所に点在している。
それぞれが異なる方法で計算された結果であり、そのうちのひとつでは、オーストラリア大陸本土の海岸線5万カ所を結んで、理論上完ぺきなバランスが得られる地点を計算している。
また、別の方法では、オーストラリア大陸をすっぽり覆う巨大な円の中心を大陸中心だとしたり、最大緯度と最大経度の中央値を結んだ地点を中心だとするものもあった。
そして、地図を所管するオーストラリア政府機関が基準中心地だとする、ジョンストン測量ステーションという名の場所も決められている。
それでも、こうしたさまざまな中心地を訪れようなどと簡単に考えてはいけない。
ランパード・センターを除けば、すべて個人が管理する土地であり、訪問するにはオーナーに連絡して許可を得る必要がある。
さらに、こうした場所へ向かうには、われわれが比較的ハイスピードなダートで見舞われたパンクが付き物であり、幸運にもわれわれはフルサイズのスペアタイヤを持っていたため、前進を妨げられることがなかったというだけだ。
さらに、オーストラリア大陸の中心地を探す冒険の旅には、もうひとつ注意すべき重大な点がある。
ジオサイエンス・オーストラリアという名の政府機関が運営するウェブサイトには、「公式にはオーストラリアの中心はありません」と書いてあるのだが、なぜだろう?
「広大で複雑な形状をした大陸であり、特に地表には高低差が存在することを考えると、中心を探し出すには多様で数多くの方法が存在するからです」
つまり、どうしても中心地へと向かう必要があるのであれば、ランパード・センターが向かうべき場所であり、そこに着いたら、今日の(もしかしたら今週のかも知れないが)仕事は終わりにしようというべきなのだ。