乳児用チャイルドシート「前向きに着用」は間違い 交通教本も誤認識 制作側に直撃
公開 : 2019.09.01 06:00 更新 : 2021.06.17 22:05
クルマの取り扱い説明書 「教則」と真逆
自動車メーカーの取り扱い説明書には以下のような「警告」がある。
「後ろ向きのチャイルドシートを前向きにして使わない」
「前向きにして使うと前方から衝突した時に、乳児が重大な傷害を負うおそれがあります」
「後ろ向きのチャイルドシートを前向きにして使わない」とは、交通の教則に記述されている「必ず前向きに固定しましょう」とは全く逆の内容になる。
同じクルマ、同じチャイルドシート、同じ赤ちゃんが乗っていて同じ衝撃を受けたとして、前向きでも後ろ向きでもどちらでもいい、なんてことは絶対にない。真実はひとつである。
そもそも乳児専用シート(後ろ向きのみで使うシート)はとくに、物理的に前向き装着できるかも疑問だ。
ISO-FIXタイプであれば金具の位置も違うから当然不可能。乳児用は後ろ向き、体重10kgを超えた頃から前向きの幼児用として使う乳幼児兼用シートの場合も、シート自体は同じでも向きが違うし、安全に使うための正しいシートの角度(乳児用は45°で幼児用はもう少し背もたれが立った状態で使用する)も異なる。
「この違いについてどう思いますか?」と、国土交通省でチャイルドシートの安全基準などを審査する部署に聞いてみたら、「警察さんはそういう考えなんでしょう」との答えだった。
警察さんはそういう考え、で放置されたら困るのだが……。
繰り返しになるが日本で流通するチャイルドシートは国土交通省が安全性を審査し型式指定を行っている。当然、乳児用シートは「後ろ向き」で審査を行っており、「前向き」での審査は行っていない。
つまり安全性は保証されていない。
制作元と警察庁広報室に聞いてみた
「交通の教則」の制作を行っている一般財団法人全日本交通安全協会にこの件を聞いてみた。
担当者からの回答は以下。
「ご指摘ありがとうございます。こちらは平成11年に公安委員会から出された告示をもとに制作しています(=平成11年から内容は変わっていない)」
「修正する場合はこちらの判断だけではできませんので……」
また、警察庁広報室にも聞いてみた。
「担当部署に確認をしましたが、個々のチャイルドシートの取り付け方については、メーカーの取扱説明書を見て取り付けていただくようお願いしています」
「この記述はあくまでも、チャイルドシートを使用する際の一般的な『教則』ですので、間違いではありませんし、これからもこの『教則』にしたがって指導をしていきます」
警察庁では、これからも、赤ちゃんの命に係わる危険な状態での使用を指導するということなのか……。
大元は20年前、チャイルドシートが法制化されるタイミングで出された公安委員会の告示であり、その時点から完全に間違った内容となっていることになる。
警察や公安委員会の中でも、20年間誰も指摘するひとはいなかったのだろうか? その間、数億冊の「交通の教則」が発行されているのに……。
この後、警察庁に新たな質問をぶつけてみたところ、「これ以上の質問は個人の記者には対応できません。媒体として質問をしてください」との回答だった。
AUTOCAR JAPANの名で編集部より質問を送っている。その回答が届いたら、続報を掲載する。