デューンバギーをEVで復活? フォルクスワーゲンIDバギーに試乗 量産模索中

公開 : 2019.09.07 09:50

量産も現実的なほどに完成度は高い

今回IDバギーの運転を許されたのは一般道での非常に短い走行のみ。砂漠で砂を派手に巻き上げながらの走行は体験できなかった。最高速度も30km/h程度に制限されてはいたものの、IDバギーの完成度は非常に高く、量産化も充分に現実的なデザインであることがわかった。

IDバギーを運転する際で一番難しいのは、クルマへの乗り降り。一番簡単な方法は、高い位置のボディサイドの凹みに一度腰を掛け、それから脚を車内に入れて、背中をシートへ落とす方法が良さそうだ。車内に座ると、小さなデジタルモニターが配された、6角形のステアリングホイールが正面に来る。左のロータリーダイヤルはウィンカー用で、右はドライブセレクトとハンドブレーキ用。

フォルクスワーゲンIDバギー・プロトタイプ
フォルクスワーゲンIDバギー・プロトタイプ

シンプルなインテリアは耐候性の高い素材が用いられ、現代水準で見ても違和感はない。インフォテインメント・システムはなく、シートの間に備わるブルートゥース・スピーカーが唯一のデジタルガジェット。シンプルで、ドライビング・ファンに焦点を当てられている。

右側のコントローラーを回し、アクセルペダルを踏み込むと、頭を引っ張られるような勢いで、静かに加速する。リアタイヤへ伝わるトルクは太く、加速力は即時的に得られるが、最高速度に制限がかかっているからすぐにリミッターが働いてしまった。

風になびく髪を感じながら、フロントフェンダーを眺めていると、1960年代のマイヤーズ・マンクス「デューンバギー」を思い出してしまう。初代同様の個性的なアピアランスだけでなく、IDバギーのドライビングも独自性が高い。際立ってシンプルなものだった。

将来のEVの自由な在り方

EVのドライブトレインは、オフロードバギーとして必要な要素をしっかり満たしているといえる。普通のクルマと異なり長距離を移動することはほぼないから、不必要にバッテリーを多く搭載し、過度に車重を稼いでしまうこともない。ステアリングは軽く、非常にレスポンシブ。サスペンション・スプリングも収縮で100mm、伸長で90mmと長いストロークが確保され、驚くほどに滑らかな乗り心地を得ている。さらに回転半径も小さく、小回りもよく効く。

まだクルマのほんの上澄みしか体験できなかったが、IDバギーはメイヤーズ・マンクスのスピリットを復活させただけでなく、MEBプラットフォームの優れた汎用性を強く示している。つまり、モジュール化されたEV専用の自動車構造を利用し、フォルクスワーゲンは驚くほどバリエーションに富んだ様々なモデルを生み出すことが可能だということ。

フォルクスワーゲンIDバギー・プロトタイプ
フォルクスワーゲンIDバギー・プロトタイプ

量産モデルを目にすることはできるのだろうか。恐らく、その日は来るようだが、それほど近々というわけでもなさそうだ。フォルクスワーゲンは目下、本命のID 3の量産モデルに向けての準備に注力しており、協力企業によって少量生産されるクルマへとEVコンポーネントを分配する優先度は、明らかに低い。

それでもIDバギーという存在は、見た目はポップだが、アイデアはシリアスなものだと思う。過去を振り返ることで、将来のEVに対してのもっと自由な在り方を描き出している。

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