ピスタ級性能を毎日楽しめる フェラーリF8トリビュートに試乗 V8は720psへ
公開 : 2019.09.06 09:50 更新 : 2021.08.05 08:11
まるで大排気量自然吸気エンジン
488ピスタやGTBと同様に、F8トリビュートにも賢いバリアブル・ブーストマネージメント機能が搭載され、ターボラグを感じさせることなく徐々に自然にトルクを増大させていく。右足の操作に対するレスポンスは猛烈と呼べるほどで、ドライバーの希望通りに即座に加速する。吹け上がりも鋭く、どんな状況でも一気にパワーを炸裂させ、8000rpmのリミッターまで即座に振り切るから、ターボの存在はほとんど感じられない。まるで大排気量でフリクションの少ない自然吸気エンジンのようだ。
そこにシフトアップが極めて迅速でスムーズなトランスミッションが加わり、加速はまるでワープするかのようですらある。シフトダウン時は、鋭いブリッピングのたびにエグゾーストからバックファイアの破裂音が響き、楽しくて仕方ない。
低回転域でのバリトンボイスは、中回転域で硬質な金属音に転じ、トップエンドめがけてクレッシェンドしていく。しかし、エンジンとエグゾーストのノイズに関しては、V8エンジンを積んだフェラーリの理想像にまでは至らない。自然吸気エンジンの458が備えていた、ヒリヒリと高音域で焼かれるような魅力は備わっていないといえるが、これが現実の世の中に対応させたものなのだろう。
だとしても、絶え間なく変化するノイズを楽しむために、変速を繰り返したくなるエンジンだ。そこに例のホットチューブ・レゾネーターが伝える吸気ノイズも加算されるが、ターボチャージャー付近からの導引だから、タービンのホイッスル音やウェストゲートの吐息が主張気味ではあるけれど。
身近な速度で体験できる稀有のコーナリング
マラネロの真髄が、この爆発的なパフォーマンスを身近に味わわせてくれる、優れたシャシーにある。488GTBから受け継いだハードに手直しを加え、F8トリビュートのコーナリング時のバランスと扱いやすさは稀有のレベル。もちろん720psのミドシップ・フェラーリだから扱いには注意も必要だが、ステアリングの切り始めから実感できるコーナリング性能は、他の追随を許さない。
近年のフェラーリの期待通りクイックだが、ナーバスなところはない。ほとんどのコーナーでは、ステアリングを90度も回せばこと足りてしまうほど。情報量豊かなフロントタイヤのグリップ力も高く、レーザーメスのような精度でラインを狙え、クルマは素早くしなやかに回転する。コーナリング時の荷重も、タイヤ4本へ均等に掛かっていうように感じられる。
さらに優れたサイドスリップ・コントロール(SSC)の力を借りて、一般道でもリアタイヤをわずかにスライドさせることも難しくない。ステアリングやスロットルの操作が過度だとシステムが介入してくるが、SSCが丸く収め、スムーズに自然なオーバーステアを披露する。とても懐の深い仕草のおかげで、スタビリティコントロールにはお休みいただいて、シャシーのバランスや安定性、操縦性の高さを自分で確かめたいと思えるだろう。
F8トリビュートの大きな魅力は、この豊かな表現力にある。488GTBやピスタとの共通性を感じる部分でもある。多くのスーパーカーの場合、限界近くまで攻め込まなければ秘められたポテンシャルを実感することは難しいが、F8トリビュートの場合は、より身近なスピードで体験することが可能。しかも不自然さがなく、クルマの性能をしっかり引き出しているように感じられる。