独断と偏見で選ぶ 英国版AUTOCARお気に入り50台 5〜1位 中編
公開 : 2019.09.08 18:50
期待に応える
そして、率直に言って911カレラSはそうしたモデルではない。長きにわたって名声を築き上げてきたすべての911の影響力を評価しようとしても、結局はどれが最高の911かを決めることなど不可能だということに気付くだけだ。
さらに、アルピーヌが突然変異とでもいうべきモデルである一方、ポルシェで連綿と続く革新という名の進化は、先代991と同じくこの992でもしっかりと踏襲されており、唯一の違いはそれがさらに良くなったということだけだ。
911がアルピーヌやマクラーレンではなく、フィエスタや320dと似ている点は、このクルマが自然にドライバーズシートへとドライバーを誘うことができるというところだ。
911はガレージの扉を開けるたび、その奥で眠るモンスターマシンがひとびとを驚かせるというようなモデルではない。このクルマは雨でも問題なくドライビングを楽しむことの出来る存在であり、ボディの汚れを気にする必要もない。
911はつねにひとびとの期待に見事に応えて来たのであり、ひとびとの期待に応えるという点でこのクルマ以上のモデルなど存在しない。
独特な存在
まるで、お気に入りの家具のように、このクルマはドライバーのライフスタイルにすぐに完ぺきにフィットしてみせ、しばらくの間は911が加わる前の生活など想像すら出来ないだろう。そして、直ぐにそんなことすら考えなくなる。そんな状態が911を失うまで続き、その後残るのは心に空いた大きな空白だけだ。
いま、こうした点で992を上回るモデルなど存在しない。最高の長距離ツアラーであり、素晴らしい通勤車両でもあり、驚くほどの速さと深いドライバーとの繋がりに加え、つねに自信を与えてくれるスポーツカーとしての才能が、独特のボディデザインに詰め込まれている。
独特な存在という意味ではマクラーレン600LTも同じだ。ウェールズのワインディングロードでこのクルマを速く走らせるということは、決して他の4台とはまったく異なる経験というわけではないが、このクルマはまったく異なる規範に基づいたモデルでもある。
そして、良くも悪くもその実力をフルに発揮させることなど決して出来ない。自制しつつ慎重に時を待ち、それ以外の時間は決して無茶をしてはいけないのだから、確かにフラストレーションは溜まるかも知れない。
(5〜1位 後編へつづく)