車輪が3本付いたフレームに原始的なエンジン 3輪自動車レースに参戦 前編
公開 : 2019.09.15 07:50 更新 : 2022.08.08 07:54
120年以上前に製造された、博物館に収まっていそうな3輪自動車によるレースを復活させた人物がいます。彼から招待状をもらった英国編集部は、怪我のリスクをおして、果敢にも参戦し完走を果たしました。その様子を覗いてみましょう。
100年以上前のトライクでのレース
ニック・ペレットからの招待状がポストに届くと、編集部員はいいわけを次々に口にした。膝が痛い。予定が付かない。身長が低いから乗れない。招待された内容は、エンジンを搭載した乗り物でも最も初期の頃となる、3輪バイクによるレースに参加するもの。ド・ディオン・ブートン社にロシェ社、フェブス社、オートモト社など、自動車の草分け的な3輪バイク、トライサイクルのレースに挑むことになった。
招待状の送り主、レースの事務局を務めるペレットは、トライサイクル・レースを復活させた張本人。情熱的なド・ディオン・ブートンのエンスージャストで、歴史的なイベントを再興し、英国のモータースポーツ120周年という節目を2017年に祝した。そして2019年、6月にド・ディオン・ブートン・グランプリを初開催し、チャンピオンシップ・レース開催120周年を記念することになった。
チャンピオンシップ・レースは全3戦が組まれ、長さは1.6kmから8kmまで段階がある。会場はフィニッシュラインのストレートが有名なブルックランズのオーバルサーキット。しかし、お互いに激しい競争を繰り広げているのか、デモンストレーション走行なのかは、牧歌的な走りからは判別しにくい。
ドライバーのひとり、ジャロットはトライクが損傷し、横転する寸前に飛び降りたそうだし、ジャロットの5psトライサイクルが原因でセシル・エッジのマシンは木製の杭に突っ込み、砕け散ってしまった。われわれがブルックランズに到着する前にも、ハプニングが起きていた。レストアしたてのトライクが早朝の高速走行時に草地に突っ込んだらしい。間違いなく本気なのだ。
混合気の割合は手動で調整
レースにエントリーしたのは8台で、4台はド・ディオン・ブートン社製のトライク。またオートモト社のトライクを除く7台はド・ディオン社製のエンジンを搭載している。ペレットはスプリント・トライクをわれわれのチームに貸してくれた。他のトライクより小径のタイヤを履いており、他の出場車よりも有利なことがスタートしてすぐわかった。だが、サドル位置が高く乗りにくい。
トライクに乗るには、リアアクスルに足をかけ、ハンドルを掴んで身体を持ち上げるのが良いようだ。サドルにお尻を付けても、当時の車体構造は今の感覚では奇妙としかいえない。大きくカーブしたハンドルが膝に当たるし、バランスも少しおかしいように感じる。
この頃のモーターサイクルは全般的に、パワートレインの操作系はフレームの上部に付いている。真鍮製の華奢なノブとレバーには何の文字も記号も付いておらず、機能を覚える必要がある。もちろんこれほど古いモーターサイクルに乗ること自体が初めてだ。
フレームには圧縮比を調整するレーバーがあり、その右側にはエンジンを点火させるディストリビューターのアドバンス角を調整するレバーがある。スタート時は手前に引いておく必要がある。サドル側にはさらに2本のレバーが生え、左側は混合機に流れる燃料の量を調整するもので、右は空気の量を調整するもの。このマシンは、手動でキャブレターを模した装置を操るトライクだということ。サドル下に取り付けられたチャンパーから、ドライバーが調整した燃料の混合気が直接エンジンへと送られるシンプルなもの。