アルファ・ロメオ・トナーレ フィアット・チェントヴェンティ 次代を担うコンセプトモデル 前編
公開 : 2019.09.16 05:50 更新 : 2022.02.08 09:29
マルキオンネのくびき
彼が抱える悩みというのは、このモデルをいつ市販すべきかというものであり、ガソリンエンジンを積んだ次期パンダの登場が2021年だとされる一方、手ごろなEVモデルはいつ市場に投入すべきだろう?
「成功が必要です」とフランソワは言う。「電動化に向けた大胆なアプローチですが、タイミングが重要であり、なかには急ぐべきだという声もあります」
だが、難しい決断だ。「政府の補助金が廃止されれば、EVの価格には最大限の下押し圧力が加わることになるでしょう」とも彼は話しており、だからこそ「より良いモデル」が必要になると考えているのだ。
なぜこの素晴らしいモデルの市販化にこれほどの時間が掛かり、強い印象を残すことには成功しているものの、依然として単なるコンセプトモデルとしてしか存在していないのだろう?
その理由に、フランソワは先ごろ亡くなった彼の元上司、セルジオ・マルキオンネと相談するタイミングの難しさをあげている。問題はこのクルマのプロモーション方法と、決して収益性が高いとは言えないこのセグメントに関するマルキオンネの認識だった。
永遠の謎
フランソワは製品会議で、自身のアイデアを披露するに相応しいタイミングを図っていたが、同時にマルキオンネが「彼が比較的平凡な宣伝のために莫大な予算を求めていると考えている」ことにも気付いていた。
だからこそ、プリントアウトした広告案ではマルキオンネが嫌っていた「新型パンダ」の名を使わず、シティカー(City Car)の4代目を意味するCC4と呼ぶことにしたのだ。「それを飛行機のなかでパラパラとめくって見せました。マルキオンネの反応ですか? 彼は『気に入った』と言ってくれました」
「それからプロトタイプの製作に着手しましたが、決した最優先というわけではありませんでした。1年前の時点では時期尚早だったのです」ふたたびマルキオンネに注目させる新たな方法を見つけ出す必要があった。「しばしばクルマについて話をする機会がありましたが、つねに意見が同じだったわけではありません」
その後フランソワはコンピュータグラフィックスによる2分間のビデオを作製しているが、マルキオンネがそれを見たかどうかは永遠の謎だ。マルキオンネに送信されたこのビデオのリンクが開かれることはなかったと言われており、彼が亡くなったあとも机の上に残されたままとなっていたUSBメモリーの中味が、実際に確認されたのかどうかを知る術はない。
(中編へつづく)