お手頃ドライバーズカー選手権2019(2) セアト・レオンとゴルフGTI、メガーヌRS
公開 : 2019.09.21 16:50 更新 : 2021.03.05 21:37
ゴルフGTIに一歩及ばぬヒュンダイi30
実際、新しいi30 Nファストバックは、ホットハッチ市場で充分に健闘できる内容を持っている。同じi30 Nのハッチバックと変わらない、フロントタイヤと直結したようなシッカリとしたステアリングフィールを備え、九十九折のコーナーをハイスピードで駆け抜ける自信を与えてくれる。コーナーの出口でスロットルを一気に開けても、トラクションコントロールがパワーを路面へと伝え、無駄なスピンで力が抜けることもない。
そのトレードオフなのか、ステアリングへ伝わる感覚が希薄になっている。エンジンのレスポンスも切れ味が悪く、トランスミッションのフィーリングもどこかぎこちない。ペダルレイアウトにも改善の余地があり、サーキットを走らせた時のフィーリングは決して悪くないものの、先輩のホットハッチに並ぶには、あと1〜2年は必要そうなことも事実。
その先輩ホットハッチとは、言わずもがなのゴルフGTI。7代目ゴルフ・クラブスポーツSの仕上がりを見るに、伝統的なGTIのイメージを超えることも可能なことはわかっているが、新しいGTI TCRはどうだろうか。評価は多少分かれたものの、ゴルフGTIはTCRになっても、現実世界で驚くほど有能な万能選手であることは変わらない。
「今回のノミネート車両の中で、最も発表の古いクルマながら、内面でも外面でも新鮮味を感じさせるのが不思議」 と評するのはサイモン・デイビス。やや穏やかなステアリングレスポンスは、フォーカスSTよりも一般道向きだとしていた。エンジンは290psにまで高まり、クラスの中でトップクラスの力持ちとなり、強調された吸気音とともに、音響面での魅力も高い。
一般道では、サーキット走行前提のミシュラン・パイロットスポーツ・カップ2タイヤが、乾燥路面でなら、ステアリングの極めて高い正確性と濃密なフィーリングを与えている。だがサーキットでの挙動の落ち着きやフィードバック、インタラクティブさという点では、ミニと同様にどこか恐怖心が拭えない。限界を迎えると突然反応が鈍くなり、フロントタイヤの圧倒的なグリップ力やリアタイヤを自由に操れる喜び薄い。ぎこちなさが残り、1975年に登場したホットハッチの主軸となるパフォーマンスではないとも感じる。
FFツートップ、タイプRとメガーヌRS
ホンダ・シビック・タイプRはどうだろう。特段新しいモデルではなく、ノミネートした理由はフォード・フォーカスSTとの比較対象という側面もある。だが基準点としてAUTOCARも大好きなクルマだ。「ボディサイズは大きく、デザインも美しいわけではありません。一般道では少しやりすぎに感じるものの、サーキットでの安定性やグリップ力、走行スピード、ドライバビリティやボディのコントロール性などは、対抗できるモデルが見つからないと思えるほど。ほとんどレースカーの水準です」 とマット・ソーンダース。
わたしはそこまで高く評価していないが、マット・ソーンダースの意見は正しい。320psという最高出力は今回のノミネート車両では最も最もパワフル。加えてクルマの挙動は常に落ち着いており、他のモデルにはない、マニュアル・トランスミッションの機械的なフィーリングが、運転という体験をさらに豊かにしている。「FF車でありながら、ほかのFFのクルマとは一線を画しています」 と記すマウロ・カロ。
シビック・タイプRも最終選考の有力候補だが、もっとも近接したライバルとなるのが、度肝を抜かれるほど速く機敏なルノー・メガーヌRS300トロフィー。不思議なことにどの審査員もメガーヌをトップ3にランクインさせることはなかったのだが、総合評価で見ると、決して無視できない仕上がりであることには違いない。
サイモン・デイビスとマット・ソーンダース、マット・プライヤーが乗り心地を指摘する。引き締められたカップシャシーは、英国の一般道にはフィットしないものだった。サイモン・デイビスは余りにも硬いスプリングレートと落ち着きのないステアリングを、4倍に濃くしたエスプレッソのようだ、とし、「極めて活発なフィーリングでしばらくは楽しめるものの、最終的には荒々しくまとまりがなく感じてしまいます」 とまとめている。
マット・ソーンダースは、以前はルノー・スポール謹製の油圧ステアリングが完璧なライン取りを実現してくれ、シャシー性能はミドシップのスポーツカーのように素晴らしいクルマだったのに、と漏らしていた。