お手頃ドライバーズカー選手権2019(3) シビック・タイプRとフォーカスST、マツダMX−5
公開 : 2019.09.22 07:50 更新 : 2021.03.05 21:37
タイプRとST、エンジンの魅力は互角
フォーカスSTの魅力は、表層に現れたエネルギッシュさと、手に届く優れた速度域にあるパフォーマンス。一方でシビック・タイプRの魅力は、エンジンの回転数を高めた時という限られた条件で現れる、高次元の可能性を秘めているところ。ハイスピードでのコーナリングと、高速走行時のクルマの落ち着きを隠し持っている。その本領を発揮するならサーキットをお薦めするが、価格が2〜3倍するスポーツカーにも引けを取らない走りを叶えてくれる。速く走るほどに、好きになるだろう。
フォーカスSTのエンジンサウンドの方がシビック・タイプRよりも好ましいし、レスポンスも若干スマートで、中回転域でのパワー感も強い。一般道で積極的に運転すると、しっかり応えてくれる。コーナリングスピードも高く、タイトコーナーからの加速もトルクが太く鋭い。
シビック・タイプRのエンジンはフォーカスSTより排気量の小さい4気筒ターボで、呼吸が激しくなる4500rpm以下ではかなり穏やか。しかしそこから7000rpmまでは鋭く吹け上がり、トップエンド付近でのパワーもフォーカスSTより上。サウンドは単調だが、より本物らしさがある。エンジンだけで比較すると、互角だと思う。
トランスミッションも甲乙付け難いが、ホンダの方が変速フィーリングが滑らかで、しっかりした操作感がある。一方でホンダのシンプルなメカニカル・ヘリカルLSDと異なり、電子制御されるeLSDを搭載するフォードの方が、エンジンのパワーをしっかり受け止めて、操作性を高めている。だがサーキットでは多くの審査員がシビック・タイプRの方を高く評価していた。
前輪駆動のポルシェ911 GT3
「操舵時の重み付けが素晴らしく、一切不安を感じることなく、クルマの向きを決めていけます」 とサイモン・デイビス。マウロ・カロは「他のホットハッチよりも遥かに自然なフィーリングで、操縦性が神経質になることもありません。ベストなエンジンとトランスミッションとの組み合わせで、刺激的で満足感の高いドライビングが味わえます」 とまとめている。
2年前に高く評価したシビック・タイプRのサーキットでのグリップレベルや安定性、高速での走行性能は、今も十二分に他を圧倒できるものだった。しかも4ドアのサルーンとして、日常的な一般道での利便性も高いといえる。
リチャード・レーンは、スランドウ・サーキットでの操縦性の良さは、周回を重ねる毎に高まる印象があり、まるで前輪駆動のポルシェ911 GT3と評せる印象がある、とメモを残している。一方でフォーカスSTの一般道で披露した優れた操縦性と懐の深さは、複雑なコーナーにバンク、縁石が入り混じったサーキットではうまく光ることができなかった。ある程度のレベルまでは鋭く刺激的に走るのだが、ホンダの水準ほどに、突出した安定性とドライバビリティの高さを備えていないのだ。
初代や2代目フォーカスSTの、遊び心のある高水準のバランスを知っている審査員には腑に落ちないところもあったのだが、それが真実だ。その結果、フォーカスSTが3位で、ホンダ・シビック・タイプRが2位へと落ち着くことになった。
最後の(4)では優勝を果たしたマツダMX−5ロードスターについて触れていこう。