お手頃ドライバーズカー選手権2019(4) 優勝を飾った30周年のマツダMX−5ロードスター
公開 : 2019.09.22 16:50 更新 : 2021.12.09 23:14
日常利用を肯定する乗り心地とボディサイズ
ただし、このパフォーマンスに関しては、試乗車が備えていたアップデート内容にも大きく依存しているだろう。2.0LのSE-Lナビと呼ばれるノミネート車両には、メカニカルLSDは装備されているが、ビルシュタイン製のダンパーやストラットバーは備わっていなかった。そのかわり、ディーラーオプションのBBS製17インチ・アルミホイールに、アイバッハ製のローダウン・サスペンション、スポーツエグゾーストが装備されていた。この仕上がりが、これまで運転したMX−5ロードスターの中でも最も好印象な内容だったのだ。
サーキットを攻め込むと、タンピング不足でやや上下動の動きで締りがなくなるのは、他のMX−5ロードスターでも同様。コンパクトでシンプルなパフォーマンスカーというカテゴリーで見れば、限界領域での奥深さに物足りなさを感じることもある。だが、最新のホットハッチレベルのスピードをサーキットで得られないからといって、クルマの魅力を霞ませるものではない。
実用性は、ノミネート車両で比較すれば乗れる人数は限られるが、その程度。むしろ路面を問わず快適に仕立てられた乗り心地とコンパクトなボディサイズは、毎日の利用を肯定するものだ。より馬力が高く、ラップタイムが5秒速く、0-100km/h加速が0.2秒速くても、本当に運転にのめり込める面白さと、他にはないスポーティなハンドリングの魅力には勝つことができないだろう。それは2019年になった今も変わらない。
2019年のお手頃ベスト・ドライバーズカー選手権、BBADCの優勝モデルは、マツダMX−5ロードスターで異論はない。加えて、誕生30歳という節目も、喜ばしい。
番外編:スピードと配点の関係性
ここ数年はノミネート車両に計測機器を付け、マット・ソーンダースのドライブでラップタイムを計測してきた。しかし、残念ながら2019年は天候が不順でスタッフの人数も不足しており、タイム計測に必要な時間を確保できなかった。だがラップタイムの速さと運転の楽しさととは、必ずしも比例しない。
仮にタイムを計測したとすれば、恐らく以前のテスト結果や今回の走行などから、シビック・タイプRが最速だったと思う。シビック・タイプRは、タイトなバスストップ・コーナーとデビルズ・エルボー・コーナーでも精度の高い操縦性と機敏さとのバランスで、素早く駆け抜けていける。強力なグリップで、右コーナーへと続くハイウェイ・ストレートでの加速も力強い。
ルノー・メガーヌRSも同様に機敏に走るが、4輪操舵システムが機敏性を高める反面、サーキットでは時折緊張感を与える場合があった。後輪駆動のマツダMX−5ロードスターは周回自体が面白い。ライバルほどずば抜けたパフォーマンスは備わっていないものの、タイトコーナーではリアタイヤを漸進的にスライドさせ、コントローラブルにドリフトを楽しむことができる。
ヒュンダイi30 Nファストバックも濃いドライビングフィールを味わえる。グルーポット・コーナーでハードブレーキングし、そこから食い込み気味で旋回していく楽しさは、病みつきになる。フォルクスワーゲン・ゴルフGTIとセアト・レオン・クプラもシリアスに走るが、セアトではフロントタイヤのグリップ力が不足するコーナーでも、ミシュラン・カップ2タイヤのおかげでゴルフは信頼感のあるグリップ力を提供していた。
フォルクスワーゲンの落ち着きと比較すると、とてもクイックなステアリングレシオを持つフォード・フォーカスSTは好対照。アジリティとしてはルノー・メガーヌRSに迫るものの、走行ペースで及ばなかった。ミニ・クーパーJCWとアバルト595コンペティツィオーネもサーキット走行は楽しめたが、グリップ力不足と落ち着きのなさが、常に足を引っ張ってしまった。