長期テスト アストン マーティン・ヴァンキッシュS(最終回)
公開 : 2019.09.16 07:50
ランニングコストはガソリン代くらい
一方で、ヴァンキッシュSよりパワフルなモデルでも、運転が疲れるという理由でクルマを乗り換えたいと考えているオーナーを知っている。スーパー・グランドツアラーを日常的に乗りたいのなら、フェラーリFFやGTC4ルッソ、アストン マーティン・ヴァンキッシュは最適な選択肢だ。レンジローバーやフォルクスワーゲン・ゴルフRに乗った次の日にドライブしても大丈夫。
この長期テストで借用していたクルマの走行距離は最大で1万2000kmまでと制限を受けていたから、当初は毎日乗る予定はなかった。だが手元にある唯一のクルマだった時もあり、実際は日常的に走らせた。学校の送り迎えや、生協への買い物など。実際、これ1台でも問題なさそうだ。
定期点検の推奨距離は1万6000kmだが、オイルの消費もなく、部品の交換も必要なかった。ランニングコストは、燃料と減価償却以外は掛かっていないことになる。新車時で20万ポンド(2600万円)もするクルマは、今の見積もりでは、装備も充実しているから18万5000ポンド(2405万円)辺りになるだろう。
日常的に走らせる上で引っかかる点。リアの+2サイズのシートは小さい。だが前席を畳んで乗り込んでもらえば、大人でも座れなくはない。ラゲッジスペースは368Lで充分あり、開口部も広いからゴルフバッグも楽に積める。
だがこのようなスーパー・グランドツアラーを走らせるなら、記憶に残る様な壮大な自動車旅行を楽しみたい。一度スコットランドへ走ったことがあったが、あまりに素晴らしかったからもう一度走らせた。インフォテインメント・システムのできは例によって良くないが、スマートフォンとのペアリングは簡単だから、大体の問題は解決できる。
スーパー・グランドツアラーを体現
乗り心地は優れたコントロール性を叶えるために硬いが、疲労してしまうほどではない。同僚のひとりはエンジンノイズやエグゾーストノートが単調気味だと話していたが、わたしを含めてそんなことを感じたというひとは他にいない。エンジン始動時の音はうるさ過ぎるが、走行時はスーパー・グランドツアラーとしてピッタリの、命の宿った咆哮だと思う。
長期テストの開始時は想像もしなかったが、1万2000kmを走行してみて、比較的経済的なこともわかった。アクセルペダルをあまり深く踏まなかっただけ、ということもあるけれど、時々はスロットルを開けて加速して、窓を開けてシフトダウンしてトンネルの中でサウンドに聞き惚れることもあった。
それでも高速道路でシフトアップを繰り返し、アイドリングより少し上の回転数で穏やかに走らせていれば、燃費は8.5km/Lを超える。もし助手席に具合の悪い猫を乗せて走らせるような場合なら、9.5km/Lくらいで走れるだろう。1L当たり100psというハイパワーな自然吸気エンジンを搭載するわりに、優れた数字だといえるのではないだろうか。
動物病院へ向かう時に限らず、アストン マーティンの素晴らしいところは、必要ならばスーパー・スポーツカーにもなり、望めば洗練されたラグジュアリーな高速クルーザーにもなるというところにある。本当に、スーパー・グランドツアラーを体現したようなクルマだった。