フォルクスワーゲン・ポロR WRC
公開 : 2013.07.06 19:00 更新 : 2017.05.29 18:58
■どんなクルマ?
フォルクスワーゲン・ポロの史上最強のロード・ゴーイング・モデルが、リミテッド・エディションとなるポロR WRCだ。WRCでのホモロゲーションを取得するために造られたモデルで、既にその名前を冠したWRCマシンは、セバスチャン・オジェ、ヤリ‐マティ・ラトバラの手によって今年5つの勝利を掴んでいる。
FIAのレギュレーションにより2,500台が生産されることになる。その生産はスペインのナバラ工場で行われることになるが、最初のオーナーへのデリバリーが開始される以前に既に600台のオーダーが入っているという。
もちろんコンペティション・マシンとこのロード・カーとの類似点は僅かではある。しかし、このポロR WRCがフォード・フィエスタST、ルノー・クリオRS、プジー208GTIといったライバルに挑戦できるパフォーマンスを持つことは明らかだ。
そのエンジンは、EA113型の2.0ℓ4気筒直噴ターボが採用されている。基本的には6代目ゴルフGTIに搭載されているものと同じで、217bhp/4500-6300rpmのパワーと、35.7kg-m/2500-4400rpmのトルクを持つ。ギアボックスは6速マニュアルが組み合わせられる。
そのパワーは、既存のポロGTIに搭載されるEA211型1.4ℓ直噴ターボの177bhp、25.4kg-mよりも20bhp、10.3kg-m大きい値だ。また、フィエスタST2に搭載される1.6ℓ直噴エンジンよりも大きい。
しかし、フォルクスワーゲンは、ポロR WRCにハルデックス・スタイルのマルチプレート4WDを敢えて搭載せずFWDモデルとした。グループ会社、アウディによって既にS1クアトロのためにPQ25プラットフォームの4WDが開発されているにもかかわらず、だ。重さと開発費、そして価格を抑えるというのがその理由である。
サスペンションはポロGTIのフロント・マクファーソン、リア・トーション・ビームをベースに改良が施されたもの。トレッドはフロントが1445mm、リアが1435mmで、18インチ・ホイールと215/35サイズのダンロップSPスポーツMaxxが標準で装備される。電気機械式のステアリングは、ステアリング・レシオそのままにポロGTIから移植されている。
エクステリアは、ラリー・マシンのような派手なものは与えられていない。フォルクスワーゲンは、他のメーカーのホット・ハッチとは異なり、滅多にプロダクション・モデルに極端なアピアランスを与えたりしないからだ。WRCの特別な装備は、18インチのアロイホイールの他は、バイキセノン・ヘッドランプ、冷却効率を上げるためのスピリッターとエア・ダクトが設けられたフロント・バンパー、ブラックにペイントされたミラーハウジング、テールゲート上のスポイラー、クローム・テールパイプ、そしてリア・ディフューザーを備えるリア・バンバーなどだ。
インテリアでは、青いステッチの入ったアルカンタラ製のフラット・ボトム・ステアリングとWECのネームが刻まれたスポーツ・シート、そしてメタル・ペダルと黒いルーフ・ライニングなどが特徴。シートは、高品質であるばかりでなく、横方向のホールドにきわめて優れるものだ。
■どんな感じ?
パワーが地面に伝わっている限りにおいては非常に速い。但し、ハンドリング・フィットネスがライバル達よりも不足しているのも事実ではある。
ポロGTIよりも重いエンジンを搭載し、装備を充実させた結果、そのボディ・ウエイトはGTIよりも54kg重い1249kgとなったが、それでもその加速はクラス・トップの値を導き出している。0-100km/hのタイムは6.4秒で、これはポロGTIやフィエスタSTよりも0.5秒速い。また、4速ギアでの80-120km/h加速も4.5秒、トップスピードに至っては243km/hという数値だ。これは、ポロGTIよりも15km/h、フィエスタSTよりも18km/h高い。
そのエンジンは印象的に滑らかでレスポンスに優れる。どんな回転域からでもレヴ・リミットの7000rpmまで一気に吹け上がるし、ロー・エンドでは柔軟なフレキシビリティを備える。また、そのエグゾースト・サウンドも活発で気持ちいい。
しかし、フロント・ホイールの接地性がよくないのだ。ESPですら、4気筒2.0リッター・ターボ・エンジンのパワーを抑えきるのに苦労をしているといった風。これは若干期待外れというしかない。新しいゴルフGTIでは、優れたメカニカル・ディファレンシャルが採用され、トルクステアを本当に上手く消しているのに、そのノウハウが移植されなかったのは残念だ。
固い乗り心地ではあるが、そのボディ・コントロールは良く、しかもグリップ・レベルは高い。ステアリングにもう少しコミュニケーションが欲しいところだが、重さは程度で、その正確さは信頼に足るもの。ワインディング・ロードでもアンダーステアを感じさせることはなく、リアがアウトに滑っていくような心配もない。しかし、そのチューニングは完璧といえるものではなく、クラスで最高のシャシーを持っているかと問われれば、そうではないと答えなくてはならない。
■「買い」か?
ポロR WRCの、その優れたエンジンと素晴らしい装備は印象的だ。しかし、そのシャシーについては失望を感じ得ないことも事実だ。しかも、この新しいポロR WRCは、ドイツでは€33,900(440万円)というプライスタグが付けられる。これは、フィエスタSTの£17,995(270万円)よりも170万円も高いのである。
(グレック・ケーブル)
フォルクスワーゲン・ポロR WRC
価格 | £29,146(440万円) |
最高速度 | 243km/h |
0-100km/h加速 | 6.5秒 |
燃費 | 13.3km/ℓ |
CO2排出量 | 174g/km |
乾燥重量 | 1249kg |
エンジン | 直列4気筒1984ccターボ |
最高出力 | 217bhp/4500-6300rpm |
最大トルク | 35.7kg-m/2500-4400rpm |
ギアボックス | 6速マニュアル |