フォード・カプリ3.0S 英国ツーリングカーの英雄、ゴードン・スパイスとの再会 後編
公開 : 2019.09.28 16:50 更新 : 2020.12.08 10:56
リスクを計算しながら、安全を確認しながら、一生懸命運転するだけ、と話すのは、英国スポーツカーとツーリングカーのヒーロー、ゴードン・スパイス。彼をクラス優勝へと導いたフォード・カプリと、シルバーストーン・サーキットで再会しました。
確かな戦績を持つからこそ保たれてきた状態
熾烈なレースを戦ってきたことを考えると、ツーリングカーレースを戦った多くのカプリが残っている事実は驚くべきことでもある。スパイス自身、1978年に彼がドライブしたフォード・カプリ3.0Sを、今も綺麗な状態でウィタカーが乗っていることには驚きを隠せない様子だった。
「ウィタカーは自身を理解した、誠実で素晴らしい人物ですね。クルマも現役時代より状態や見栄えも良いようです」 恐らくこのフォード・カプリ3.0Sは、スパイスの最も輝いたシーズンを走ったクルマであるという事実、7回の総合優勝と4度目のクラスタイトルという戦績が、良好な状態を保つ動機づけになったのだろう。
フロントフェンダーには、スパイスのビジネスに精通した感覚を伺わせる、Autocarのスポンサーロゴが入っている。「雑誌の名前を載せていれば、他のスポンサーのためにも良い記事が載ると考えたのです。実際そうでした」
シルバーストーンの陽光の中で、カプリの細いピラーで支えられたボクシーなフォルムと、シンプルで見慣れたボディラインが映える。これまで丁寧に費やされた維持の手間も写り込んでいるようだ。
「このカプリを所有して4年目です。レストアされていたのですが、ナイジェル・ルーベン・レーシングというTVRを得意とするガレージへ持ち込んで見てもらいました。そこで、すべて組み直すことになったのです。レーシングカーなら、良くあることです」
スパイスのオリジナルマシンでレース
クルマは、基本的に当時の状態へと戻された。「完成したカプリを専門家に見てもらうと、当時とは違うところがある、とのことでした。小さな手作りのセンターコンソール・ボックスだったのですが、実際にスパイスに見てもらうと、当時も付いていたようです。彼がドライブしたクルマであることを裏付ける証拠も、いくつか出てきました」
クラシックカーのオーナーなら誰でもそうだが、ウィタカーにとっても経歴やオリジナリティは重要なポイント。「ある男性がグッドウッドのイベント会場にやってきて、シルバーストーンで戦っていた頃の写真を見せてくれました。インテリアやエンジン、3台がピットに並ぶ様子などの写真を持っていました」
「その写真のダッシュボードにはオリジナルの6連メーターのものではなく、レース用のものが付いていました。当時のFIAの既定によれば、カプリのものが付ける必要がある、と記されており、写真に写っていたダッシュボードは作ったものの、保管してあります」
「クルマは75%くらいがオリジナルです。ゴードンが当時使っていたコルビュー製のシートも、レプリカの新しいものに作り直してあります。古く見えますが、素晴らしいものですよ」 これからも長く所有するつもりかを聞くと、もちろん、と即答したウィタカー。
「このカプリはゴードン・スパイスが実際にドライブしたクルマです。レースの戦い方を変えたといってもいいでしょう。他のレースカーも持っていますが、このクルマで攻めた走りをすることが、心配に見えるようです。コピーのカプリを作って、オリジナルは保管しておいた方が良いと話す人もいますが、その作業は複雑過ぎます」