メルセデス・ベンツSLRマクラーレン スーパーカーを夢見たグランドツアラー 前編
公開 : 2019.09.29 07:50 更新 : 2020.12.08 10:56
エンジンの位置を見直し前後バランスを改善
マレーがメルセデス・ベンツへ投げかけた提案は、V8エンジンを搭載したスーパーカーだったが、ビジョンSLRコンセプトのスタイリングの範疇の中で、量産モデルを構築する必要性を説き伏せられた。アピアランスは斬新なものではあったが、明らかにそのプロポーションはグランドツアラーだ。
伝説的なスーパーカー、マクラーレンF1を生み出したのはわずか36名の精鋭チームだったが、メルセデス・ベンツという大手自動車メーカーとの連携ということで、SLRの量産化プロジェクトに関わった人数は450名。
まず取り組んだのは、コンセプトカーの明確な欠点の改善。フロントに搭載されたV8エンジンを可能な限り車両中央へと寄せ、フロントバンパーからは1m後方、フロントアクスルからは500mm後方へとマウントされた。
マレーはスタイリングには手が出せなかったものの、アクティブ・エアロダイナミクスの考えは気に入っていた。電子制御されるリアのアクティブスポイラーは、95km/hになると10度せり上がりダウンフォースを増加し、ハードブレーキング時には65度まで立ち上がり、エアブレーキのように作動する。ちなみに、オリジナルの300SLRにもエアブレーキは搭載されている。
コンセプトカーのラウンドしたテールはフラットになり、ウエストラインも高められ、ダウンフォースは増やされている。ボディ底面はフラット化され、レースカーを彷彿とさせるリアディフューザーも搭載していた。
燃料タンクやエンジン搭載位置の変更は前後重量配分を改善し、49:51へとバランスを改善したものの、1768kgという車重がSLRにのしかかった。1138kgと軽量だったマクラーレンF1との差は大きい。
635psのV8が生む最高速度は333km/h
ビジョンSLRコンセプトのシャシーは、キャビンを構成する強固なカーボン・コンポジット・セルを中心に量産モデルへと展開された。セルの前後にはカーボンファイバー製のクラッシャブルゾーンも採用され、これは量産モデルとしては初めてのことだった。
当時カーボンファイバーといえば手作業で折り重ねるような素材だったが、マクラーレンによって近代化。専用の生産施設の中でロボットがカーボン繊維を編んでシートにし、複雑なカーボン製アーキテクチャを製造する技術が導入された。
オリジナルの300SLRに搭載されたのは直列8気筒エンジンだったが、新しいスーパーGTに搭載されたのは、メルセデス・ベンツ社の中では使い慣れた5439ccのオールアルミ製V型8気筒。5速ATが組み合わされ、量産化にあたっては70psのパワーアップも図られている。
リショルム式ツインスクリュー・スーパーチャージャーと、高圧縮比化により、最高出力は635psにまで高めれられた。マクラーレンF1より1ps低い数値ではあったものの、1999年のクルマとしては望外に高いパワーだった。この最高出力により、0-96km/h加速に要する時間は3.8秒で、最高速度は王代の200mph(321km/h)を超える、333km/hに到達している。
そんなSLRの真のパフォーマンスを確かめることは、公道では不可能。そこで今回の試乗では、シルバーのクーペと、その4年後に追加された黒のロードスターをサーキットへと持ち込むことにした。
メルセデス・ベンツSLRマクラーレンの試乗レポートは後編にて