リマック EVメーカーとしての未来と過去 グランドツアーでの事故
公開 : 2019.09.23 11:45 更新 : 2019.09.23 14:25
すでに複数の自動車メーカーと提携
マアテイの大きな勝利は、2016年に、彼のヒーローリストのトップのひとりだった、クリスチャン・フォン・ケーニグセグから電話をもらったことだという。スウェーデンのハイパーカー・メーカー、ケーニグセグ社のCEOだ。
ケーニグセグはリマック社の技術力を高く評価し、異次元の加速力を生む強力なバッテリーと電気パルス発生ソフトウエアの提供へとつながった。他にもアストン マーティンはハイパーカーのバルキリー用カーボンファイバー製バッテリーパックの製造をリマック社へ依頼している。ピニンファリーナ社も次期バティスタで同じ動きを見せている。
他にも韓国のヒュンダイとキアは、8000万ユーロ(95億2000万円)でリマック社との技術提携を今年結んでいる。「リマック社は高性能EVに対して突出した技術力を備えた革新的な企業」だと高く評価している。製鉄まで自社で行う韓国企業からの、貴重な発言だといえる。
他にもインフォテイメント・システムを含めるソフトウエア・コンポーネントを利用している非公表の自動車メーカーも数社存在するという。ポルシェは、2018年にリマック社と「開発パートナーシップ」を組み、10%の株式を購入している。
だが将来のポルシェのどこで、リマック社技術が現れるのだろうか。タイカンはリマック社との提携が結ばれる前にほぼ完成していたし、フォルクスワーゲン・グループのハイブリッド技術をSUVに搭載している。ポルシェ911が、リマック社の技術を活用する現実的な選択肢となってくる。
リマック社のロンジンは「何もいえません」と話すが、ポルシェとは「将来的なプロジェクト」がいくつかあることを認めている。世界で最も象徴的なスポーツカーに、クロアチアの技術が搭載される日も来るのかもしれない。BMWやテスラ、Youtubeには大きく感謝していることだろう。
番外編:「グランドツアー」でのクラッシュ
アマゾンが配信する番組のひとつ、「グランドツアー」でリチャード・ハモンドが運転するコンセプト・ワンが崖下へ転落した事故をご存知の読者も多いだろう。彼の事故で、当時リマック社が生み出したクルマの1/5が駄目になった。
当時存在していたリマック・コンセプト・ワンは5台。2019年内に残りの3台を完成させ、7台が現存することになる。事故後すぐに病院へ向かったロンジンはリチャードと会話を交わし、いまもいい関係にあると説明する。「彼がまだ生きていることが大切な事実です」
コンセプト・ワンの残骸はリマック社の倉庫にしまわれているが、その扉は誰にも開けさせないそうだ。「リチャードの事故とブランドイメージとを結びつけたくありません。あくまでも事故は歴史のひとつ。今はすべてが良好で嬉しいです」
リマック社を大きく成長させた1台
派手なグリーンで仕上げられたE30型BMW 3シリーズは、ゼロヨンのギネス世界記録を保持している。2012年にリマック社のCEO、マアテイ・リマックが生み出したマシンで、後輪駆動の598馬力。400mを11.85秒で走った。
ポルシェ911GT3 RSに迫る速さだが、400mのフィニッシュラインを通過した速度は122.2km/h。初期加速が極めて鋭く、ある程度の速度を維持できるが、加速はさほど伸びないことも示している。
そもそもレース中にエンジンがだめになるも、新しいエンジンを工面する資金がなく、苦肉の策としてひらめいたソリューションがEVだったという。「テスラとノキアにインスピレーションを受けていました」 とロンジンは説明する。
サーキットでは、EV化されたBMWは当初冷たい待遇を受けたようだ。「誰もが嘲笑していました。こんな洗濯機で何をするんだい?勝つなんて無理だ、と。彼が勝利を上げ始めるまでは」 マアテイはグリーンの年代物のBMWを、リマック社が2021年に創業10周年を迎えることを記念して、レストアする予定だという。