優雅に走るスポーツカー シボレー・コルベットC1とメルセデス・ベンツ190SL 後編
公開 : 2019.10.05 16:50 更新 : 2022.08.08 07:52
スタイリッシュな190SL
彫りの深いメルセデス・ベンツのキャビンは乗り降りがしやすく、スポーティなシートの掛け心地も良い。ステアリングホイールの取り付け位置はコルベットC1より上にあるが、直径は同じくらいだ。
1958年のAUTOCARには、「平均的な伸長の人なら、ステアリングホイールの上端が視線の中に入ってくる。背の低いドライバーの場合、時々ステアリングの中を覗く必要もあるかもしれない」と記してあるが、その通りだった。
前方の道路を見ようとすると、ステアリングホイールに加えてレブカウンターとスピードメーターも視界に入ってくる。なかなか賑やかな眺めだ。
エクステリアデザインは、メルセデス・ベンツの方がよりシャープで造形も豊か。300SLのようにホイールアーチの上部にはオーバーフェンダーが眉毛のように付いていて、圧倒的にスタイリッシュ。190SLのテールは長く緩やかに傾斜し、長いトランクリッドの先にクロームメッキのバンパーが付く。
190SLは小柄に見えるものの意外と全幅は広い。静かな午後に美しい郊外の道をゆるりとクルージングするのは夢心地。気がつくと日がすっかり傾いて、影が伸びていた。
コルベットの方は意外にも幅が狭く感じられ、同じ道路でもゆったりと運転できる気がする。西海岸の道を思わず心に描きながら、特に急ぐわけでもないドライブだから、速度を上げる必要もない。車線を縫うのではなく、快適におおらかに走らせた。
乗れば日常の悩みを忘れてしまう
目立ち具合も互角。ある家族は鮮やかなアメリカンを指差し見つめ、別のドライバーはジャーマンに驚きを隠せないようだった。メルセデス・ベンツはハリウッドスターもドライブしたが、コルベットもハリウッドスターのようだ。実際、どちらのクルマも英国では非常に珍しい。
そもそもコルベットC1の生産台数は少なく、1年目に生産された台数は300台程度。翌年でも、今回の赤いクルマを含めて3000台をわずかに超えるくらいしか作られなかった。しかしコルベットC1は、当時の誰もが望んでいた、アメリカ製スポーツカーの始まりを告げたクルマだ。
「信頼性の低く遅いコルベット」「300SLとは異なる遅いメルセデス」という、新車当時の悪評は過去のもの。兄貴分の300SLの後ろに控えた存在だとはいえ、190SLも充分に素晴らしい。本来190SLが目指したところは、戦後のアメリカで普通のドライバーが乗れるライトな300SLを目指したのだ。
わたしだけでなく、190SLを見た誰もが美しいと口を漏らすようだった。残りの見物人は、コルベットC1に集まり、横でポーズを撮って写真を取っていく。この2台を道路で走らせていると、日常の悩み事は忘れてしまう。このクルマのことなら、何でも許せてしまう。