サーキットから公道へ ジャガーDタイプとアストン マーティンDB3S 前編
公開 : 2019.10.13 07:50 更新 : 2020.12.08 10:56
機能性最優先のアストン マーティン
コクピットの中も面白い。DB3Sの露出したドアハンドルは、ジャガーのデザイナー、マルコム・セイヤーなら許さなかっただろう。Dタイプの方は、シンプルにワイヤーを引っ張るもので、機能的ながらレイアウトは職人的なこだわりを感じさせる。
白と黒のメーター、雑然と配置されたスイッチ類、機器類が露出した車内、直立した角度のリアミラーにチェック柄のバケットシートなど、1950年代の実用主義が貫かれる。
美しさよりも機能性が優先されているから、ギアボックスのカバーはクロスしたケーブルで固定。アストン マーティンはライバルよりも馬力で劣る事が多く、チームのボスだったジョン・ワイアーは、ピットストップの時間を削ることが大切だとわかっていた。
見事にレストアされたDタイプのインテリアと並べると、アストン マーティンの一部剥がれた塗装や摩耗したレザーが記憶を鮮明に物語るようだ。過去の英雄も運転したコクピットに座る、というありがたみも増す。
長年に渡って汗と油が染み込んだ、3スポークのステアリングホイールを握るだけで気持ちがあがる。彫りの深いDタイプのコクピットと違って、フロントガラスの上から見下ろすような着座位置は、ビンテージ感も強い。
燃料ポンプの電源を入れ、イグニッションスイッチを下げ、ダッシュボード中央の大きなスイッチを親指で押してエンジンを始動。3.0Lの直列6気筒が雷鳴とともに目覚めた。アクセルレスポンスは過敏でシャープ。フライホイールの慣性はほとんど感じられない。
コーナリング性能に優れたシャシー
マフラーエンドは運転席側のサイドシルに下から伸びていて、ほとんど何も聞こえなくなる。耳栓を付けた方が良いものの、大音量で自分好みのサウンドを楽しむことにした。
ステアリングホイールは重く操作は忙しい。加えてシフトノブもクラッチも硬く重い。路面の起伏に、ストロークの限られたサスペンションは耐えきれず、ガタガタと音を立てながら振動が伝わってくる。
滑らかな路面でペースが速くなると、DB3Sは本来の姿を表しだす。シフトアップは回転数が高くなるほどスムーズになる。ボール・ナット式のステアリングはシャープで、正確なフィーリングがコーナリングスピードを上げさせてくれる。
殆ど効かなかったブレーキは、タイトコーナーでの強いブレーキングで目覚たものの、制動力の立ち上がりが突発的でロックする予兆も伝えてくれない。エンジンは低回転から滑らかに吹け上がるが、3000rpmから4000rpmが最も力強い。狭い生け垣の道を抜ければ、アストン マーティンの向かうところに敵なしだ。
コーナリング時のシャシーバランスは秀逸で、エンジンパワーも丁度いい。滑らかで軽快な身のこなしが、優れた評価を再確認させてくれる。路面が平滑なサーキットなら、美しいまでに自由にコントロール可能だろう。ウェットコンディションでドライバーが楽しんだという話もうなずける。
貴重なDB3Sを郊外の一般道で走らせても、味わえるパフォーマンスはごく一部。それでも優れたコントロール性を備えたシャシーからは、歴史に刻まれた高い評価を実感させ、特別なマシンをドライブしているという感動が生まれる。